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□その人魚、過去(中)
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気が付いた頃、私はとても大きな水槽に入っていた。


助けて、コーデリア様…


誰か迎えに来て


そんな願い虚しく、コンコンと丁寧なノックをして入って来たのはあの男だった。


「目が覚めたんだね。気分はどうだい?」


とても最悪よ。



「やはり海や湖のような自然が良いのだろうけど我慢してくれ」


独り善がりな考えね



「食べたいものはないかい?」


貴方からの食事なんて取りたくないわ


「何か食べないといけないよ。あっ、何も食べなくても生きていけるのかい?」


そんな訳ないじゃない


「水の中に潜っていないで、出てきておくれよ!」


うるさい煩いウルサイ!!!!



「慣れない場所で緊張しているんだね。大丈夫、此処は私のワークルームだからね。基本ここにいるよ、何かあればすぐに言ってくれ」



そんなに気遣いをするくらいなら返して欲しい。





そうして、そんな不毛なやり取りが一ヶ月も続いた。

一ヶ月の中で気付いたことは、

この部屋に来るのはあの男以外に、スーツを着た仏頂面な秘書らしき人とメイドだけ。


会話の中で覚えたが、如月さんと橘さんと言うらしい。



あの男は、決まって水曜日と土曜日に午後の1時から5時までは仕事で外出していること。


政治をする裏で何人ものライバルを殺めていたこと。



とても穢らわしい。
そうとしか思えなかった。


ここに誘拐されて一ヶ月を過ぎた頃から、秘書とメイドが話しかけてくるようになった


その度に言われる言葉は、

「すまない、何もしてやれない」



「本当にごめんなさい」


きっと、この2人は悪い人間じゃないと思ったわ。




そしてまた一ヶ月が過ぎた。


相変わらず話しかけてくれる2人は日々の退屈しのぎになる。
喋ろうともしたが、意地になって話せなかった。その代わりに、頷いたり首を振ったりをしていた、


けれど、それも出来なくなり始めていた



二ヶ月間なにも飲まず食わずだった身体は痩せ細り、動くのもままならなくなってきていて、


ついには話しかけられている途中で意識を失ってしまった。



目が覚めた頃にはなぜかベッドにいて、脚もアンクレットがつき、人間のソレになっていた。

『今なら逃げられる……?』


そう思って起き上がろうとしたけれど、力が入らず断念。


カチャ…
と静かにドアが開いた。
あ、あいつが来たんだと身体を強張らせていると、


別の聞き慣れた声がした



「よぉ、目が覚めたみたいだな」

如月さん。


「栄養失調だろうと思って、スープとか食べやすいもん持ってきたんだが……」


返事をしようか悩んだが、如月さんと橘さんなら、と思い口を開いた。


『いら、ない……』


あの人が与える食事なんて


「そういう訳にもいかねぇよ。俺が作ったんだ。安心しろ」



『本当……?』


彼が作ったのなら。
多少なりとも心を開いた彼ならばいいと思った


「俺は嘘つかねぇよ!」


と言って、無邪気に笑った。

相対した人間に邪な考えが無いかなんて、それ位わかる。


彼は信用していい部類だ。


『食べます、』


そう言うと、顔に似合わず優しい手つきで起き上がらせてくれた。


力の入らない手ではスープを零すだろうだろうと、食べさせてくれた


『美味しいです、』


久しぶりの食べ物で心から暖まるスープだったせいか、顔がほころぶのが自分でもわかった。


「!!お前、笑ってた方がいいよ」


『へ?』


「ポーカーフェイスも悪くはねぇけど、笑ってろよ。俺と橘さんの前だけでもな」


なんて言って、頭を撫でてくれた。
本当、顔に似合わない。


けど、嫌じゃなかった。



コンコンとノックが鳴って、それにビクッと反応してしまった、


「あら、お目覚めだったのですね」

優しい笑みをたたえた橘さんだった
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