キューティクル探偵因幡

□intense heat!
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前日、事務所で行われた百物語大会の話に
洋は恐怖で眠れない一夜を過ごしてしまった。
それでも荻に仕事の呼び出しをされれば、断る事は出来ない。

呼び出させた現場に眠い眼を擦りながら洋はたどり着くが、そこは猛暑で酷く暑い。
あまりの暑さと寝不足に体力には自信のあるはずの洋だが、
あちこちを走りまわり続け段々と体力が削り取られていく。

・・・・暑い    ・・・だるい
そう思ってはいたが、気がつかぬうちに限界をむかえていたらしい
洋の身体はグラリと膝から道路に崩れ落ちていく。
「! おい!! 洋!!」
荻の自分を呼ぶ声が、鼓膜を塞がれたように遠くから聞こえる・・・


「洋 おいっ! しっかりしろ」
ピタピタと頬を叩かれ、重い瞼を持ち上げると
心配そうな荻の顔が目の前にある。
「・・・・・・おぎ」
「洋 水飲めるか? 熱中症だと思うが・・・」
荻が手渡そうとしたペットボトルを受取ろうとするが
しびれる腕にうまく力を入れる事が出来ない。
「わりー 手が動せない・・・ 荻、飲ませて」
「あ、ああ・・」
ペットボトルを口元に持ってきてもらうもりで頼んだのだが、
荻はペットボトルのキャップを外し、
水を含むと洋に顔を近づけてきた。

「・・・えっ」
重なる唇から水を流し込まれる。
数回続いた口移しに、思わず洋は動かない腕を呪った。

・・・こんな理由を付けられる時くらい荻の背に縋りたかったな

「どうだ? 少しは楽になったか? まだ飲むか?」
心配そうな荻に甘えコクリと頷く。
ペットボトルの水も残り僅かになるまで、口移しされ水を飲まされる。

洋は熱に浮かされた頭のまま、気になっていた事を荻に聞く。
「なぁ・・・ お前ってさ ・・・・誰にでもこんな事するのか?」
「?」
不思議そうな表情を浮かべる荻に重ねて質問する。
「だから・・・誰にでも口移しとかするのか?
・・・・そうだな たとえば緒方が倒れたとするだろ?
その時も頼まれたら ・・・するのか?」
途端に荻は嫌そうな顔になった。
「・・・・・・まぁ 凄く嫌だが ・・・・周りに誰一人いなければ しかたない・・・
物凄く不本意だが・・・」


・・・そうか 特別な事じゃねーのか・・・
がっかりと眼を閉じると、頭上から声が掛かり洋は眼を開け声の方に視線をずらす。
「荻野警部! 変わりましょうか?
ずっと膝枕しっぱなしで 足が痺れてませんか?」
「平気だ」
 視線の先には荻の部下が日傘を差しかけていた。
他にもうちわで風を送ってくれている荻の部下やペットボトルを買い込んで
待機している奴やたくさんいるではないか・・・
「!!!!!!」
慌てて起き上がろうとした洋は、頭がグラグラと揺れ
また倒れこんでしまった
「・・・・っ」
「バカ! まだ動くな!」
「な 何なんだよ・・・・」
真っ赤になって熱を上げる洋の顔を見て
荻の手が額に触れてくる。
「・・・・まだ かなり熱いな・・・・・
たくっ 辛かったなら早く言え 何、遠慮してんだ・・」
ため息をつく荻に部下がまた声を掛けてくる。
「警部 ひえピタ買ってきました」
手渡されたひえピタを荻は洋の額や首に貼り付けていく。
だが一向に熱は下がりはしない。

・・・・そうか 周りに他の奴がいても、俺には荻が面倒みてくれるんだ・・・・・
自然と顔がにやけて笑う洋に、また具合が悪くなったのかと
心配する荻に、何とか動かせるようになった指先で荻の指先に触れる。
・・・自分の気持ちが通じるように そう願いながら

・・・お前に何かあっても 俺は他人にお前の事を任せたりしない・・
・・・いや そんな事 出来るはずないんだ・・・

・・・・いつまでも きっと ずっと・・・
お前は大切な相棒で・・・

そして、ただ一人の特別な人なのだから・・・

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