世界一初恋

□幸せのカタマリを君に
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今日も朝から仕事が次から次へと湧いてくる。
桐嶋はそれを淡々と片付けていく。
しかし、会議から戻ってくると、
折角減らした要確認の書類の山がまた積み上がっている。

ため息の一つでも吐きたくななるが、これも自分の仕事だ・・・
また少しづつでも山を減らしていこうと桐嶋が書類を確認していると、
部下から昼休憩に出てくると声を掛けられる。
そんな時間なのかと時計を見ると、既に1時を回っている。
桐嶋は自分も一休みし、楽しみにしていた弁当を取り出した。

文句を言いつつも結局作ってくれた弁当の蓋を開け、製作者の横澤を思い出す。

昨日は3週間ぶりの横澤の身体にすっかり溺れてしまって箍が外れてしまい
気がつけばかなり無理をさせてしまっていた。
目の前には身体を動かすのも億劫そうな横澤が恨みがましい目を桐嶋に向けていた。

だが自分は料理を作ってくれている横澤を見ているのも大好きなので、
今日は出来合の惣菜売り場をパスして肉とキャベツを買って来たのだが、
そう告げた時、横澤は桐嶋を無視して不貞寝を始めようとしたので、しつこく声を掛け続けていると、
横澤の目がパチリと開いて桐嶋を見た。
「今の俺に料理する体力なんて欠片もねーぞ・・・」
不機嫌な顔と掠れた声でかなり辛い身体の現状を桐嶋に伝えてきた。
それでも横澤も空腹だったようで、何とか身体を起こしキッチンに行くと
冷蔵庫から作り置きのおかずを次々取り出すと温め直してテーブルに運んできてくれる。
その時は少しがっかりしたのだが、無理も言えず二人で夕飯をすませた。

だが、これは返って良い結果だった気がする。
こうして横澤お手製の愛妻弁当が食えるんだから・・
肉が勿体無いだのブツブツと文句を言いながらも、朝からテキパキと作ってくれた横澤・・
別に今日の夕飯でもその肉は俺は構わなかったんだけどけどな・・

顔がついにやけてしまう桐嶋に部下達が次々に声を掛けてくる。
「あれ? 編集長やけに嬉しそうですね」
「あ、弁当珍しい! お嬢さんですか?」
・・・横澤が作ったって、もし言ったらこいつらどんな顔すんだろうな・・
笑って返事をしない桐嶋に、
企画書のチェックしていた営業の逸見と部下の加藤が桐嶋の弁当を覗き込んだ。
「うわー おいしそうですね! 一口欲しいです!」
「あっ 俺も一口欲しいっす! すげー美味そうな匂いしてます」
「うらやましいだろ? でもやらねーよ」

・・横澤が折角作ってくれたのに 他の奴に一口だってやる訳ねーだろ
・・・今頃 横澤も弁当を食ってるかな・・?
あの海苔で作ったハートを見て、今頃どんな顔しているんだろう・・
想像して、桐嶋はまた笑ってしまう。
きっと驚いて、そして社内だったら慌てて隠して人気のいない所に持って行って
ぷりぷり怒りながら食ってんのかな・・・

横澤を思えばいつも癒される・・
皆が怖がる怒ったあいつも俺には可愛くて仕方ない・・
横澤が何してても可愛く見えるんだから・・・
俺もかなりの重症だ・・・

毎日、毎日 好きな気持ちが大きく育って
どこまで好きになるのか自分でも見当がつかない・・

今朝は怒らせてしまったが、謝り倒してでも
今日も何とか家に来させて仕事の疲れを癒して貰おう・・
そう決めて、目の前の幸せのカタマリを口に入れる。

「美味い・・・」
また、桐嶋は笑みが自然と零れた・・

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