世界一初恋

□午後の日差しと踊るクマさん
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午前の仕事を終え営業部に戻る途中、横澤は桐嶋に偶然出くわす。
「おっ、横澤 この後は昼休憩か?」
「ああ いったん部署に戻って報告した後何もなければ休憩にするつもりだけど」
「じゃあ 一緒にメシ行こうぜ 下で待ってるから
急な仕事が入ってムリそうなら連絡くれ」
「あ・・・・ああ、わかった」

桐嶋を待たせたくなくて、足早に営業部に向かい報告をすませると、
受付付近で待っている桐嶋の元に向かう。
・・・途中、すれ違いざまに女子社員が今日は桐嶋を見れてラッキーとか
おしゃべりしている会話が耳に入ってくる。

忙しい桐嶋は、普段あまり他の部署に行ったりしないから
社内で見かけるのは貴重なんだろう・・
実際、自分も以前は会議で顔を会わすのが中心だった
最近は自分がジャプン編集部に行く機会も多いし、桐嶋も暇を見つけて営業部に足を運んで来る

そんな桐嶋に好意持っている人には貴重であろう佇む桐嶋に目線をむける。

・・・なんか普通に立っているだけなのに、悔しい程絵になる人だな・・・・・
つい見とれそうになり、誤魔化すように声を掛ける。
「わりー 待たせたな」
「いや、たいして待ってねーよ で?なんか食いたいものあるのか?」
「特に決めてねーけど あんたは?」
「よし! じゃあ付き合え!」

やたらと嬉しそうな笑顔を向けられ、
わざわざタクシーを使って連れて行かれた場所に、横澤は激しく腰が引ける

「な、なぁ・・・まさかここで食うのか?」
唖然と建物を見る。

白を基調にした、いかにも女子受けしそうな童話に登場しそうなメルヘンチックな店だ
ここに男二人で入るにはかなりの勇気がいる
「偶然、お前に会えて良かったよ。 資料写真でデートに使えそうなかわいい店と
料理を急ぎで頼まれてるんだよ  でも、この店に一人で入るのはさすがに抵抗があってさ・・・」

・・・偶然の出会いに少しでも喜んだあの時の自分を殴ってやりたい・・・・・・

さっき、会社を出る前に予約とか写真とか会話していた電話はこの店だったのか・・・

「ほら、入るぞ  経費で落ちるからタダメシだぞ嬉しいだろ?
それに、この店はデートに大人気の店だぞ」
「・・・・・・・・・・・・・」

予約してたから、どうやっても逃げられないのか・・・
横澤は覚悟を決めて足を進めて店内に入る。
その店内もやたらと可愛らしい内装だし、店内にいるのは女性客とカップルばかりで
男だけで来ているのは自分達だけだ

居たたまれない空気に桐嶋を置いてでも、正直逃げ帰りたい

そんな横澤を他所に桐嶋はサクサク店内に入り、店員に先程連絡していた用件をつげ
店内の写真を数枚撮った後に席に案内されている
「おい、横澤どうした? こっちだぞ」
「・・・・・分かってる」
店の人に失礼だと思うが、深いため息が自然と出てしまう

案内させた席は写真を撮りたいと言っていた為か、
それとも桐嶋の見た目ゆえ客よせに案内されたのか
店外からでも目立つオープンテラスの一席だった

注文を終え店員が傍を離れると堪っていた愚痴が横澤の口から零れ落ちる
「なんで編集長のあんたがわざわざ資料写真なんか撮りに来るんだよ
部下にやらせりゃいいだろ こんな仕事・・・」
ブツブツ文句が止められずにいる横澤を桐嶋はただニコニコと笑って見ている。
「・・・・・なんだよニヤニヤしやがって あんたこんな可愛いものが
実は好きとかって言うんじゃねーだろうな」
「アホ この空間が好きだったら家の中だってそれっぽくなってるだろ」
「まあそうだろうな ・・・なら何だよ」
「可愛い恋人とデートしてんだぞ そりゃ嬉しいだろ」
変わらず横澤をニコニコ見続けている
「・・・・・・・何度も言ってるが、一度眼科に言って来い
それに、デートじゃなくて仕事だろあんたは」
「デートのついでの仕事だ」
「・・・・・ああ、そうですか」
これ以上ムキになって桐嶋を喜ばせるのは癪なので
会話を強引に切り上げムッと押し黙っていると、店員が料理を持って近づいて来る
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