世界一初恋

□May God answer hear my prayears!
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 <turn 横澤>

その日の俺の気分は最悪だった・・・

そりゃそうだ・・・ 政宗が好きな相手の為に自分をあっさり切り捨てたんだから・・・
・・・何年間も政宗を幸せにしてやりたくて傍にいたのに・・・
笑うしかないじゃないか・・・ この状態・・・

俺は政宗の家の近所にある公園に大雨の中、自然と足を向けていた
ここにある どっしりとした大きな木が自分の生まれ育った場所の風景に似ていて
俺は、時折ここを思い出したように訪れていた

懐かしさを誘う大木の下・・・
こらえることが出来ずに、ただ零れ落ちる涙を止めることが出来なかった・・・

どのくらいの間そうしていたのか・・・
気が付くと自分に傘が差しかけられている

驚いて視線をそちらに向けると、
やけに心配そうな顔をして、こちらを見ている男と目が合う

「・・・大丈夫か?」

・・・・・・・まさか・・・俺に言ってるのか????

「・・・あんた ・・・もしかして、俺が見えてるのか?」
「うん?・・・まぁ・・」
政宗もそうだったけど・・・今時めずらしいな・・・
頭の片隅でそんな事を思った・・・

「お前、ずぶ濡れだな・・・ そんなんじゃあ体調崩すんじゃないか?
とりあえず、うちに来い」

その人の差し出してきた暖かそうな手に思わず縋ってしまいそうになる・・・
それでも俺は歯を食い縛って首を横に振った
「・・・・・・」
人とはもう拘りたくはない・・・

「ほら・・・」
その人は辛抱強く俺に手を差し伸べ続ける
その時、俺の傍から離れようとしなかったソラ太がその人に反応して足元に擦り寄って行き
俺の方を見てしきりに鳴き声をあげている
「こいつを助けて」
そう必死に訴えているような鳴き方・・・

そのソラ太を一撫でして、その人はまた俺に手を差し伸べてくれる

「・・・ほら、こいつもこんなに心配してるだろ 大丈夫だから・・・ おいで」
弱りきっていた俺は、もう何も考えたくなくて無意識にその手を握り返していた


そのまま手を握られ連れて行かれたのはマンションの一室だった
ドアを開け、玄関から中に声を掛けている
「ひよ タオル持ってきて」
「わかった〜 ちょっと待ってて」
返事が聞こえ、その後パタパタと軽い足音がこちらに向かってくる
「おかえりなさいパパ 濡れちゃったの?」
そう言ってこちらに来た女の子は俺を見て固まっている・・・

・・・それはそうか・・・・

・・・いや、・・・あれ?この反応・・・・ 
もしかして、この子も俺が見えているのか?

「もしかして、妖精さん? あっ!神様? コロボックルの神様?」
やけにキラキラした目で俺を見ている・・・

・・・いや ・・・妖精もコロボックルも俺よりさらに小さいぞ・・・
自分は確かに妖とも神とも呼ばれている存在だ
・・・けど、今時見えるやつは本当に珍しいのに・・・
「・・・申し訳ないけどコロボックルでも妖精ないけど・・・」

あの期待に満ちた目に、こう告げるのが申し訳ない気分だ
「あっ、ごめんなさい 小さい頃コロボックルの童話が好きで何度も読んでいて会ってみたかったの・・・」
俺が気を悪くしたと勘違いしたのかしきりに謝ってくる
誤解させたくなくて、その子にニコリと笑う
「気にするな・・・」
・・・なんか、この子と話していると苦しかった心が何故か少し穏やかになる

「ひよ 話は後にしてなにか暖かいもの入れてあげて」
「うん!」
「お前はタオルで拭いて あつ、でも着替えが・・・ うーん・・・ひよのTシャツとかなら大丈夫か・・・」
「平気・・・このままで・・・」
そう言ったのに、その人は部屋から出て行き、新しいタオルと服を持ってきてくれた
「さっきのタオル、もう濡れてるだろ こっちも使え」
「・・・・すまん」

渡されたタオルはフカフカして日向の香りがして暖かい・・・
・・・まるで ・・・この人達みたいだ・・・

その日はそのまま入れてもらったホットミルクを飲んで その後、泊まらせてもらった

こんな終わり方をしても、まだ俺は眠りにつく時いつものように政宗の幸せを願い
シクシクと痛む胸に辛くなりながらソラ太を抱きしめ続けた・・・


翌朝、馴染みのない部屋に昨日の事は夢では無いと思い知らされる
鈍る頭でノソノソと起き出す
・・・昨日はろくに礼すら言ってない事に気が付く
・・・・お礼を言わないと・・・

ソラ太とリビングに向かうと、そこには昨日の二人がすでに起きていて朝食の準備をしている
そして俺とソラ太に気が付き挨拶をくれる

「昨日、あんなにずぶ濡れになってたから心配してたけど平気か?」
「ああ大丈夫 それより昨日はありがとう・・・」
それに、この人が夜中に何度も心配して俺の様子を見に来てくれていたのを知っている・・・

・・・寝たふりしてたけど・・・

「そうだ・・・ 昨日は自己紹介出来なかったから 俺は桐嶋禅、こっちは娘の日和
ひよって呼んでやって」
「日和です」
俺に笑顔を向け礼儀正しくお辞儀してくれる
それにつられて俺もお辞儀を返していた

「・・・で? お前は?」
「ソラ太・・・ こいつ」
そう言ってソラ太を指差す
「へーソラ太ちゃんか よろしくね私は日和だよ」
ニコニコと挨拶をしているその姿は何ともかわいらしい・・・
そんなひよを一目で気に入ったのか
ソラ太はひよの足元に頭を摺り寄せて甘えている

・・・こいつ!
まあでも、気持ちはわかるけど・・・
でも、初対面で珍しいな・・・

「お前は? 名前は?」
「・・・・・・・」
この人達が良い人達なのは少しの時間接しただけで俺には判る
・・・・それでも
もう人と拘りになるのは・・・

黙っている俺に桐嶋さんは小さくため息を吐く
「解った・・・ それじゃぁ教えてくれる気になったら教えて」

・・・困ったような顔
そうだよな・・・ 世話になって名前も教えないなんて・・・
いくらなんでも失礼過ぎる・・・
「・・・・横澤隆史」
ポツリと告げると嬉しそうに笑ってくれる
「そっか 横澤か・・・なんかやけに人間っぽい名前なんだな・・・」
「じゃあひよは横澤のお兄ちゃんって呼ぶね ひよより小さいけどお兄ちゃんって感じだし いい?」
「ああ それと世話になった礼だ 何か願い事を一つ叶えてやる」

その願いを叶えたらここから出て行こう・・・
この場所は暖かくて・・・ つい気を許してしまいそうだ・・・

「なんでも叶うのか?」
桐嶋さんは突然訊ねてくる

・・・なんか願いがあるのか?

「え? ・・・いや 願いを増やせとか、人の生死に拘ることも無理だな・・・」
「・・・そっか 俺は無いかな・・・」
・・・・桐嶋さんは、一瞬とても寂しそうな顔をした
「・・・ん?」
なんだろう?と思いながらも、その表情に聞く事を躊躇ってしまった

願いを叶えて、ここから出て行こうと思っていたのに・・・
目論見が見事に外されてしまって、結局、願いが見つかるまでここにいる事を約束してしまった・・・

二人が、それぞれ学校と仕事に出かけ、暇な俺とソラ太は家の中を見て回った

そして、先程の桐嶋さんのあの表情の理由を見つけてしまった
・・・・奥さん 亡くなっていたんだな・・・・・

仏壇にはひよに似たかわいらしい女性の写真が飾られている

少し考えてから言えば良かった・・・
昨日は気持ちに余裕がなくて、奥さんがいない事を気が付きもしなかった
・・・・口から出た言葉はもう戻せない・・・・

世話になった人に希望を持たせて、突き落としてしまった・・・・
その事実に俺は落ち込んだ

「ダメだな・・・・ 俺は」
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