ひとりぼっちのお姫様。

□夕方の来客。
2ページ/10ページ






 出雲「八田ちゃん声荒げとったなぁ…みちるちゃん、何したん?」

みちる「…美咲ちゃんが当然の権利を奪っているだけです。」

 出雲「尊の用事もそれ関連かいな。まぁーた…面倒なこっちゃのぅ。」


するとバーのドアが開き、散歩に行っていた尊とアンナが帰ってきた。

みちるの姿を見つけたアンナは駆け寄り手を握った。

視線を合わせた二人の少女はそのまま何事もなく離れ、みちるはソファに腰掛けた尊をまっすぐに見つめた。


みちる「…周防、尊さん。」

  尊「何だ。」

みちる「……十束多々良の、遺品を引き取りに来ました。」


その名前を聞いた尊は目の色を鋭くさせてみちるを見据えた。

みちるは怯むことなく尊を見つめ返しており、慌てて出雲が間に入った。


 出雲「ちょお待ち、尊!…みちるちゃん、どういう事や?」

みちる「…私の母の旧姓は、十束といいます。十束多々良の、従妹にあたります。」

  尊「……あいつの?」


目を丸くした尊と出雲にみちるはゆっくりと頷いた。

アンナはただ黙ってビー玉を覗いている。

出雲はかたくなに唇を噛んでいるみちるに先を促した。


 出雲「それで?」

みちる「…ちゃんと、お別れ言えなかったから。遺品だけでも、と、思って……。」


話していくうちに掠れていく声に出雲は何と声をかけていいか分からず、ただ手を伸ばしかけた。

その時。

バーの扉が強引に開けられた。


 美咲「ッッ、みち!!」

みちる「……美咲ちゃん。」


駆け込んできた美咲を見たみちるは歩いて美咲に近づいた。

美咲は少しだけ沈んでいる様子のみちるに手を大きく広げその華奢な体を抱きしめた。

みちるは肩口に顔を埋め、大人しくなった。


 美咲「…話したのか?」

みちる「ん。」

 美咲「待ってろっつったろ?」

みちる「…いつ来るかわかんなかったし。」

 美咲「馬鹿かお前は。一人で話せる訳ないだろ?あーもう…。」


ため息をついた美咲はみちるの体を力強く抱きしめた。

少しだけ不安そうな瞳で見つめるみちるの背中を優しく叩き、体を離すと3人に頭を下げた。


 美咲「すいません、これが迷惑かけて…。」

 出雲「いや、ええんやけど。…みちるちゃん、遺品の事やけど。」

みちる「ッ、……はい。」

 出雲「もう、ここに残っとるギターとカメラしかないんよ。後は知らん人たちが引き取ってしもうてなぁ…。」

みちる「……そう、ですか。じゃあ、ここに置いておいてください。」

 出雲「ええんか?」


その言葉にみちるはただ笑って言うのだった。




 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ