ひとりぼっちのお姫様。
□小太郎と猫の一週間
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急に降り出してきた雨に顔をしかめて近くの軒下に駆け込む。
ここから家まではまだ遠く、バーによってタオルを借りようかと思案し始めた時。
小さな小さなか細い声が耳に入った。
目に入ったダンボールを開きぱっちりと合わさった瞳に、何故だか弟の姿を思い浮かべた。
*小太郎と猫の一週間*
濡れ鼠になりながらバーにやってきた美咲は懐を押さえつけていた。
出雲から受け取ったタオルで髪を拭きながらぐるりと視線をうろつかせる。
首をかしげたみちるに恐る恐る問いかけた。
美咲「…こたは?」
みちる「まだ。だけどそろそろかと。」
美咲「そーか……みち、あの『こんにちわーっ。』………やべぇ。」
小太郎「お兄ちゃん濡れたの?傘持ってって言ったじゃ……。」
出雲「小太郎?どないしたんや。」
小太郎「………お兄ちゃん、」
美咲「………なんだ。」
小太郎「懐にしまいこんだもの、元の所に戻してきて。」
その言葉で美咲は手で懐を守るようにし、小太郎から距離をとった。
険しくなっていく小太郎の表情にメンバーはなんだなんだと集まってきた。
数秒、兄弟でにらみ合っていた2人だが、急に美咲の懐が動き出した。
焦って宥めるように上から撫でていた美咲だが、そんな事はお構いなしにソレは顔を出した。
美咲「っこら、出てくんな!!」
『みー!!』
みちる「…あーあ。」
ひょこっと顔を出した子猫は周囲の人だかりに驚いて首を引っ込めたが、それでも目で興味深そうに辺りを見ている。
どこか楽しげな様子でみちるは迷わず美咲の胸元に手を突っ込み、猫の首を掴んで引っ張り出した。
じたばたと暴れていた猫だったが、慣れた手つきでみちるが撫で始めるとすぐに喉を鳴らしだした。
目を輝かせたアンナが撫でてみると猫は大人しく撫でられていた。
出雲「八田ちゃん、その猫どうしたんや。」
美咲「雨宿りしてたら見つけて…目が合っちゃって放り出せないし、まだ生まれてすぐみたいで……。」
みちる「これどうすんの。飼い主探す?」
美咲「こんだけ小さいんだったらうちで慣らした方が早いかと思って。いいか?」
みちる「うん。じゃあ名前つけないとね〜。」
ひざで丸まっている子猫を撫でているみちるはそっと微笑みを浮かべ、美咲も笑みを浮かべた。
黒い毛並みの子猫は腹と手足の先が白く、くりくりとした金色の瞳でじっと観察していた。
どうやらご主人が誰か分からないようでしきりに辺りを見回している。
メンバーも群がって可愛がり始め、出遅れたエリックは少し肩を落としながら後ろを振り返ってみた。
そこで見たものを瞬きをしながら見つめ、藤島の服の裾を引っ張った。
指である一点を指したエリックに視線を動かした藤島は同じようにそれを見つめ、首をかしげた。
藤島「小太郎、そんな隅で何やってるんだ?」
赤城「こたろーもおいでよ、猫可愛いよー?」
坂東「まさか猫が苦手な訳あるまいし…。」
美咲「……そのまさかだよ。」
エル「え?」
美咲「そいつ、猫が大嫌いなんだ。」
試しに美咲が猫を抱えたまま近づいてみると、小太郎は耳と尻尾の毛を逆立てて威嚇し始めた。
心なしか瞳も赤く染まっており、唸り声を上げて猫を睨みつけている。
猫は気がつかないのか腕の中から首を出して小太郎を見つめた。
段々と大きくなる唸り声に怯えた様子はなく、するりと抜け出して小太郎の傍まで寄った。
途端に小太郎は距離をとり、離れた場所から低い声を出した。
小太郎「おい猫。それ以上近づいたら喉笛噛みちぎって噛み殺す。」
『…みゃあ、』
小太郎「はぁ?馬鹿な事言ってんな、お前のご主人はお兄ちゃんだ馬鹿野郎。」
『みゃー、みゃっ!!』
小太郎「違う、後ろのお前を拾ってきた人。それ以上近づくな。」
『みゃあーっ、みゃー!!』
子猫は小太郎に甘えるような声を出して飛びついた。
全身の毛を逆立てた小太郎は一瞬で瞳を赤く染め、本気で威嚇し始めた。
それにも関わらず子猫は一直線に小太郎に向かっていく。
何度距離をとっても駆け寄ってくる子猫に堪忍袋の緒が切れたのか、小太郎は牙を剥き出して子猫に飛びかかった。