ひとりぼっちのお姫様。
□従順な彼が執着するのは
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出雲「…あ。」
不意に出雲がこぼした声に尊が振り返ると、すまなさそうに手に持っていた瓶を降った。
出雲「切れてもーたわ、ケチャップ。」
尊「……何か困るのか。」
出雲「いや、これがないと料理できへんねん。せやから、尊のお昼も作れへん…。」
尊「……!!!!!!」
絶望的な顔になった尊を慌ててなだめ始めたアンナと出雲を見ていた小太郎は手を挙げた。
小太郎「僕、買ってきましょうか?」
*従順な彼が執着するのは*
出雲「スマンな、小太郎。これ、買ってきて欲しいもののリストな。」
小太郎「分かりました。」
出雲「尊には待っとくよう言い聞かせておくから、ゆっくりでええで?」
小太郎「はい、じゃあ行ってきます!」
笑顔を浮かべてバーを出て行った小太郎を見送った出雲は後ろで不機嫌そうな顔をしている尊を振り返った。
今はたまたま置いてあった惣菜パンを食べているが、この状態が数時間も続くと店を焼き尽くす羽目になるかもしれない。
それだけは避けたい出雲は小太郎にお使いを頼んだのだ。
小太郎は大人の姿でメモとお金を持って出て行った。
――ここ数日、バーに通ってきている小太郎は何も知らない子供のように従順だった。
出雲に食えと言われたらものを食べる、尊の機嫌が悪い時に帰れと言われたらそのまま帰る、アンナに泊まってと言われると泊まる。
その従順さに出雲たちが焦ってしまったほどだった。
慌てて美咲に問いかけると、淡々と『そういう奴なんです。』と言われた。
美咲「あいつの中には執着するものがない。何にも執着しなければ、そういう感情が沸くこともないんです。」
出雲「…でも、八田ちゃんたちには、」
美咲「俺たちは『家族』っていうくくりがあるから執着するんです。たぶん、それでなければ執着しませんよ。」
出雲「そないな言い方あらへんやろ?きっと、小太郎かて…。」
美咲「…そういう奴なんですよ。」
その時の美咲の顔は諦めたような悲痛な表情で、出雲は何も言えなかった。
みちるに目を向けるが、みちるは興味がなさそうに言い放った。
みちる「こたがそれでいいんなら、それでいいと思う。だって、僕だってあんまり変わらないし。」
冷たく突き放したような言葉に美咲は怒りもせず、その頭を撫でていた。
そんな事を思い出しながら、尊のために別のものを作り始めるのだった。