ひとりぼっちのお姫様。
□夕方の来客。
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そろそろ陽も落ちてくる頃。
出雲がバーカウンターでグラスを磨いていると、ドアベルが音を立てた。
視線を向けると、数日前の少女がそこに立っていた。
出雲「…いらっしゃい、お嬢ちゃん。」
優しく声をかけると、少女はゆっくりと店内に脚を踏み入れた。
*夕方の来客。*
少女は出雲の目の前の席に腰掛け、ぐるりと周囲を見渡した。
手にしていたグラスを置くと人あたりの良さそうな笑みを浮かべ、少女に問いかけた。
出雲「八田ちゃん待ちか?」
みちる「…別の、用事。」
出雲「そうなん?まぁええけど。」
みちる「……美咲ちゃん、今日来るの?」
出雲「どうやろ…あ、お嬢ちゃん。」
みちる「?」
出雲「名前聞いとらんかったさかい、教えてくれへん?わい、草薙出雲っちゅーんや。」
みちる「……椿、みちる。」
出雲「みちるちゃんやな。みちるちゃん、何か飲むか?」
みちる「…いい。」
首を振ったみちるはしきりに辺りを見回して誰かを探している。
その様子を眺めていると、みちるは部屋の隅にあったギターに目を向けた。
近くまで寄り手で触れながらそれを見つめていた。
みちる「……これ、誰の?」
出雲「…もうおらんようになってしもた、知り合いのもんや。」
みちる「……そう。」
目を細めながら何を考えているか分からない表情でギターを見つめたみちるは立ち上がった。
出雲には背中を向けたまま、問いかけた。
みちる「…周防、尊さんは。いつ帰ってくる?」
出雲「散歩やから、もうすぐやと思うけど。尊に用事か?」
みちる「そんな感じ。」
その時、出雲の携帯端末が鳴り響き、眉をしかめながら出雲は通話ボタンを押した。
出雲「なんやねん…もしもーし、草薙や。」
美咲『草薙さんすいませんそっちにみちる行ってませんか!!?』
出雲「おー居るで。なんか尊に用事や言うて…。」
みちる「美咲ちゃーん、僕いるよー。」
美咲『ッ、やっぱお前そのつもりかアホみち!!今そっち行くから待ってろ!!絶対に俺が居ないところで話しすんなよ!!』
叫んだ美咲は通話を切ってしまい、後には内容が分かってない出雲と肩をすくめているみちるが残っていた。