旧真田邸書庫
□君に届け、この想い(幸政)
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大坂夏の陣。
豊臣と徳川の運命をかける戦い。それは豊臣側の真田幸村と徳川側の伊達政宗にとってもこれからの運命を懸ける戦いでもあった。
「これでよかったのですか、政宗殿」
小十郎がいつもより落ち着いている政宗に問い掛けた。
政宗が幸村のことを想っている事は前々から知っていた。
その幸村が今敵側についている。それでも平然を保っている政宗に小十郎は不安でいっぱいだった。
「あいつが決めた事をワシがどやかく言う必要はないがな」
政宗は冷めた口調で答えたが、その両手はガクガク震えていた。
「ですが、政宗様・・・」
小十郎は政宗が痛々しく感じた。武士の習いは腑に落ちない物ばかりと・・・
「だがな、ワシも正直迷っておるのだ。この手で幸村を討つのを」
政宗がぼそりと呟いた。
真田幸村とは川中島で会い、お互い心惹かれ合っていた。あの時はこのような結果になるとは全く感じなかったから。
「・・・できればワシは幸村を生かせたい。できればの話だが・・・」
珍しい政宗の弱気な本音を聞き、小十郎は軽い溜息を吐いた。
「政宗殿は徳川に忠誠を誓ってるっことではないですよね?」
「バカめ、当たり前だ。伊達の武名を世に知らしめる為に此処に来たのだ。小十郎、何が言いたい」
突然の小十郎の言葉に反射的に返した。いきなり何を言い出すのだと心の中で思いながら。
「でしたら徳川に味方してるフリしながら幸村殿を助けましょうか」
「バカめ、それができれば苦労はしないのだ。それとも何か考えがあるのか?」
「私と成実が豊臣軍を引き付けて、政宗殿はその隙に幸村殿を助けてあげてくだされ」
総大将の政宗不在で小十郎と成実らが代わりに、徳川軍を助けるフリをするのはかなり至難の業である。
万が一ばれたら・・・斬首か領地を奪われるか。
「・・・下手したら小十郎等が徳川に反逆の罪で討ち取られるぞ」
「元より承知です、そうですよね?成実殿」
「ああ、殿は気にせず行っててくれよ」
武士は死をも恐れては名が折れる。その命は使える主人の為に賭ける。それが武士の忠義。