長編無双小説

□夢の政 三章 阻む者
1ページ/9ページ

昼下がり
政宗は自室で政務をこなし、幸村は庭で槍の鍛練をしていた。友人の城とは言え槍の鍛練ばかりは日頃欠かさない。ただ他人の城にじっとするのが少しばかり萎縮するので、気を紛らわすために体を動かしている。それをじっと見つめる小十郎の姿が居た。

「真田殿、息抜きでも」
「かたじけない」

幸村は槍の鍛練を一旦止め、流れ出る汗を手拭いで拭き取ってから縁側に腰掛ける。小十郎が持ってきた差し入れの茶をゆっくり啜る。

「真田殿・・・殿の我儘でこの城に無理に留まらせて申し訳ございませぬ」
「いえ、構いませんよ。甲斐に居ると緊張ばかりしてましたからたまには息抜きも良い哉と思いまして」

甲斐には戦国最強と謳われる武田信玄が治めている。幸村は祖父の代からずっと武田家に忠誠を誓ってきた。信玄が王道制覇を達成する事を何よりも望んでいた。
しかし、まだ若い幸村にとってそれがたまに重荷になる。周りには信玄に長年仕えている年長者ばかりで、幸村と対等に接してくれる者が歳が近い兄の信幸とくのいち位しか居なかった。
川中島で出会った初めての歳が近い政宗が印象に残った。あれから政宗の事が気になり、政宗が治めてる米沢まで尋ねてきたのだ。

「今迄でこんなに悠長な時を過ごしたの、生まれて初めてかも知れません」
「・・・そうだったのですか」

いつも私と行動を供にしているくのいちも織田の偵察に長期に渡って不在中だ。知ってる人が居ない此処は幸村にとって心休まる場所なのかもしれない。

「ならば・・・今宵の夕食は貴方が好きな物を用意しておきましょう」
「あっ、お構いなく。私は・・・」
「真田殿はもう既に私達の友人でもあります。それなりのお持て成しをするのは当然の事です」

ぽかんと口が開いて驚いてしまった。以前は敵として対峙していたのに、今は友人として接してくれている。伊達家の家臣も武田家と同じく年長者は大勢居るが、歳が近い小十郎や政宗の従兄弟・成実が政宗の良き相談相手になっている。それが自分と政宗の周りの環境の違いだろう。
幸村はいつしかこの安らぎに甘え始めていた。

夕食に本当に自分の好物が膳に用意してあり、思わず食が進んだ。政宗もあまりの食べっぷりにあっけらかんとしていた。







その晩
幸村用にと用意してくれた客室で昨晩と同じく紫色の香を焚き、ゆっくりと眠りに就いた。
今宵の夢はどのようなものだろうかと内心期待しながら。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ