log2

□男は怒られる。
1ページ/1ページ



「探しに来た訳ではない」



男は不遜に言った。






胸がつきつきしてる。
いましがた出て来た扉の閉じる音が、耳の奥でこだましてる。

俺じゃない誰かに、笑いかけるユーリ。
触れて、話して、そんなの制限する気はないけれど、けれど、愛を贈るのは俺だけでいい。
そのまろい頬に触れるのも、唇にキスするのも、その全てを見れるのも。

だからさっき、あの男がその頬に口付けた時、頭の中が正直真っ赤になった。

「―――……」

扉からさほど離れることは出来ず、壁に寄り掛かってずるずるとうずくまる。
胸の奥、胃のあたりにどっしりと溜まった重たいもの。
はぁ、と深く息を吐いて、軽くなる訳でもないが吐かずにはいられなかった。

見開かれた瞳が忘れられない。
泣かせたくないなどただの言い訳で、本当は逃げたかっただけ。

「――ッそ…、」

ガシガシと、乱暴に頭を掻きむしる。
無性に自分に情けなかった。

「――なんだ、いじけてるのか。情けない男だな、お前は」

「………」

「言っておくが、別に探しに来た訳ではない」

なんなんだ。
ふ、と現れた靴先。
と同時に降ってきた、笑いを滲ませた嘲るような声。
思いきり眉間に眉が寄った。

「笑いにわざわざ来たんですか…? ずいぶん暇なんですね」

「…厭味を言うほどの元気があるならば、さっさとユーリの元へ戻れ。……泣いている」

小さいが確かに聞こえたそれに、ぴくり肩が揺れる。
目線を合わせないまま立ち上がり、吐き捨てるように口を開いた。

「原因はあなたでしょう…っ? 自分の尻拭いくらい、自分でなさったらどうですか?」

こんな事が言いたい訳ではないのに。
口をついて出てくる言葉が、さらに自分を惨めにしていく。
ちらり、ちらり、脳裏にあの揺れる瞳がちらつく。


胸が苦しくて堪らない。


「だから、そんな事を言えるのならば行ってやれと言っているだろう。俺では駄目のようだからな」

「そーそー、こーんな男に構ってる暇があったら早く渋谷のとこ行った方がいいよ。ウェラー卿」

「――――猊、下…」

「げ…」

ひょっこり、そんな効果音が合いそうなほど不意に角から顔を覗かせたのは、この国では至宝の色を持つもうひとりの偉人。
ユーリが輝く色ならば、その人は静かな色。
口元には微笑を、瞳はガラス片に遮られ見えない。

「ほら、早く行ってあげなよ。こんな男に彼を慰めようったって、声が届く訳ないんだからさ」

だって渋谷の中、君でいっぱいなんだからさー。


いつの間にか駆け出していた。
後ろでにっこり笑った実力者がいたことを俺は知らない。



男は怒られる。



そうしてもどかしく開けた扉の先。
愛しい存在を抱きしめたのは、その後すぐだった。



fin

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ