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□男は行動する。
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「あ、もう少しでユーリが来るな。お前はさっさと帰れ」
ひらひらと手を払われまるで、というかそのまんま、お邪魔虫のような扱いよりも、その口から出てきた言葉の羅列にこめかみに青筋だった。
びきり、と。
「ユーリが…?」
そんな話は聞いていない。
口ぶりからすれば何度かこの時間帯に来ていることが窺い知れるのだが、俺はまったく知らない。
沸々と沸いてくるものは、この後ここに来るという恋人にか、それともこの男にか。
掴んだままの剣の柄。
このまま引き抜いて振り下ろしてやろう。
あ、いやだめだ。
魂だけの存在なんて、なんて煩わしい。
ギリリ、歯噛みしてユーリが来るのだと、心なしか嬉しそうな男を睨めつけた。
「おお、こわいこわい。男の嫉妬は醜いぞ」
「なら、俺のユーリにちょっかいを出すのはやめてください」
「断る。…お、来たな」
堂々巡りの問答にイラつきが頂点に達そうとした刹那、後ろの扉が開かれる。
「やっほー、眞王。また来ちゃった……て、コンラッド!?」
「………」
「よく来たな」
振り返ればやはり、愛してやまないあの子がいた。
元気よく吊り上げられた口端が、ひくりとわなないている。
上げられた片手は微妙な位置で固まって、それほど俺がこの場にいたことが意外だったのであろう。
それがさらに胸のムカつきを酷くさせた。
「ああ、ユーリ。そこの男は気にしなくていい。すぐ帰るだろうからな」
くつり、笑う。
ちらり、その場から動けないでいる恋人の姿を見、首だけ動かして楽しそうな存在だけの男を見遣った。
ん? どうしたと、深い青のような緑が笑みを含んだ色で問うてくる。
早く出て行かないのか、と。
ギチリ、奥歯が軋む。
ユーリがそこにいるのに溢れ出しそうになる、ドロドロしたもの。
ここにはいられない。
眞王の思い通りになってしまうのがこれまたイラつくが、それよりも湧き出るそれで大好きなその子を傷付けてしまうのだけは避けたいから。
「コンラッド…、」
「ユーリ、いつまでもそんなところに立ち尽くしているな」
遠慮がちにこちらへ伸ばされた子供の手は、あっさり横から伸びてきた手に掻っ攫われた。
なんだ、触れられるのか。
などと、どうでもいいことをぼやっと頭の端で思った。
ちりちりと、頭の中でちぎれそうになっているものがある。
「ちょっ、とま…っ!?」
「――っ!!」
男は行動する。
まろい頬にちゅっと軽い音がたつ。
我慢など、できなかった。
呼ばれる声がするけど全身から溢れ出てしまう前にと、足早にその場を後にした。
今口を開いたら、貴方を傷付けてしまいそうで怖いから。
fin