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□プレゼンター
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「…ギュンター、欲しいものってある?」

「欲しいものですか?」

おれがそう問うと、目の前の美形は少し考えるように眉を寄せた。
その姿がすごく決まっていて、おれは思わず見とれてしまう。

「………私は……何も…ありませんが」

しばらくして、ギュンターが赤みの差した顔でそう言った。

「本当?」

「ええ」

おかしいな、瞬時に思う。いつもなら、がめついほど詰め寄ってきたりしてもおかしくないのに、今のギュンターはそれをしない。

「…だったら、さっきの考えるような素振りは何?」

「え……」

ピタッとギュンターの動きが止まる。

「……有るんだな」

じと目で見上げると、だらだらと冷や汗を流すギュンターの姿が。
なんだよ、おれにそんなに言いたくないのかよ。とちょっどだけ拗ねてみたくなった。

「ななな何もございません。私は別に陛下を………」

そこまで言って、はっとしたように手で口を塞いだ。
その態度が不審で、おれが眉を寄せるとますますギュンターの顔色が悪くなる。

「…おれが何?」

じりじりと後退る彼。

「ああっ、陛下! お許しを!!」

おれが椅子から腰を上げると、とても年寄りとは思えない俊敏さで、執務室から飛び出していく。
慌てて後を追おうとおれも部屋を出たが、ギュンターの姿はすでに無くて。

「……なんだよ。人が折角」

後に残されたおれは、一人でその日の執務をこなさなくてはならなくなったのでした。

それからギュンターの態度がおかしくなった。
いつもなら髪を振り乱してまででも来ていた朝が、ちょっとびくびくしながらやってきたり。
おれが書類の事で教えてもらおうと声を掛ければ、過剰な反応が返ってきたり。
こんな態度をとられれば、考えたくない事を考えてしまう。

「…………あのさ」

「は、はいっ?」

ほら、また。声が裏返ってる。
そんな風に接せられると、なんだか悲しくなってきた。

「……陛下?」

「そんなにおれの事が嫌い?」

震えないように心掛けたつもりだったが、口から出た言葉の語尾が震えていた。
泣きたくなるのをぐっと堪えて、机を睨み付ける。
自分で言った言葉に胸が痛んだ。

「そのような事は」

「じゃあなんで、おれの事避けてるんだよ!? 昨日おれが、あんたに欲しいもの尋ねたとたんにこんな…っ」

おれが顔を上げたら、ギュンターがはっと息を飲んだ。

「陛下…」

ぽろぽろと涙が零れる。
胸が痛くて、涙が止まらない。
ギュンターに嫌われたのかもしれない。そう思っただけで、胸が苦しい。

「言えよっ…おれの事、嫌いじゃないんなら言ってくれよ!!」

溢れる涙を拭きもしないで、立ちつくしているギュンターに掴みかかるように歩み寄った。

「ギュンター!」

「…………」

困惑したような顔。
それから諦めたような、そんな笑みをギュンターは浮かべた。

「……陛下ですと私が言いましたら、陛下は私を嫌いになりますか?」

ふわりと涙が拭われる。

「私の欲しいものとは、陛下ですよ。私が陛下一筋なのはご存じでしょう? 私が陛下を嫌って避けるなど、到底ありえない事です」

優しい手付きでおれの涙を拭いながら、呆然としてしまったおれにギュンターは苦笑すると、声を潜めて囁いてきて。

「私自身が怖くなったのですよ。陛下が欲しいと言って嫌われるのではと思ったから…」

そこで一端言葉を切ると、大きな手がおれの頬を包んだ。

「私の欲しいものをいただけますか?」

「…いいよ。あげる……」

おれがそう言うと、嬉しそうにギュンターが笑った。
目を閉じる瞬間、おれはその笑顔が好きだ。そう思った。



fin

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