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□子供の日
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「…………どうなってんだ? これ…」

目が覚めたら…おれは子供に戻っていた。
おれの隣では、変わったいびきをかいて眠っているヴォルフラムが。んで、反対側には困ったような、おもしろそうな顔をしたコンラッドがいた。
一体全体、おれの体はどうしちゃったってゆーの!?
退化、だなんてありえない状況に、おれの少ない脳みそはパンク寸前まで追い詰められている。

「…驚いたな……今日は子供の日だったのか」

「へ?」

子供の日…!? ってーと、鯉のぼり上げたりするのか、この国でも!?
柏餅でも食えるのかと、おれはそれこそ、瞳を輝かせたりする。でもあっさりと、おれの期待は裏切られた。

「とりあえず、隠れましょう」

「へ? なんで?」

だぼだぼのパジャマ姿のまま、ベッドから引きずりだされる。
肩幅が合っていないせいで、肩が服から覗く。それを見てクスリと笑ったコンラッドが、おれを抱き寄せて耳元で声を潜めた。

「見えてますよ…一昨日の痕」

「……っ!!」

顔が一気に赤くなるのが分かる。急いでパジャマを掛け合わせて隠す。
そんなおれにコンラッドは。

「…普通の姿だったら、すごくそそる格好だったのに…残念」

なんて事を、さらりと囁いてくれた。
おれがそのセリフに何も言えずにいると、コンラッドはおれを軽々と抱き上げ、どこかへ連れていこうとする。慌ててどこへ行くのか尋ねると、爽やか青年は、文字通り爽やかな笑顔で一言。

「俺の部屋ですよ」

…まぁいいか。今は子供の姿だし。いくらなんでも、子供にまで手出しはしないだろ。出したら犯罪だぞ? …地球の話だけどさ。
眞魔国がどうなのかは知らないけど……。

「…なあ、コンラッド。どうしておれが隠れなきゃいけないんだよ? 子供の日って言ったら、子供が主役なんじゃねーの?」

子供抱っこされたまま、部屋から連れ出される。

「子供が主役だというのは、この国でも同じ事なんですが…、ここでは、少々事情が複雑で」

「事情…?」

足早に彼の部屋に入るると、おれをベッドに下ろし隣に腰掛ける。

「どう事情が複雑なんだよ?」

余った袖を捲り上げて手を出そうと、おれが悪戦苦闘しながら尋ねると、彼はクスクスと笑って答えながら手伝ってくれた。

「何千年か、何百年ごとなのか、まだ、はっきりと知られていないんですが、魔王が子供になる日があるらしいんです」

「らしいって…」

「自分の目で見た事が無かったもので。でもまあ、子供になるだけなら良いんですけど…」

どこが…?

「俺としては、こんなに可愛いユーリの子供時代があったのを知れて嬉しい限りなんですが、ちょっと困った事になると俺は思えてならないんです」

困った事? つーかその前に、そんな爽やかな笑顔で、そんなセリフ言うなんて反則だ…!
なんだか恥ずかしくなって、顔を背ける。

「…ユーリ?」

さらりとコンラッドの大きな手が、おれの頭を撫でる。
それが気持ち良くて、目を閉じて甘受して、はっと気付いてその手から逃れた。

「んでっ? 困った事って何!?」

「…それは」

「――コンラート!! ユーリをどこへやった!?」

扉をけたたましく叩く音とともに、凄い剣幕のヴォルフラムの声が。

「………ああ、何となく分かった…」

確かに困った事だ…。これにギュンターが。

「陛下ああぁ!!」

「………………」

…これにツェリ様が。

「コンラート、陛下の独り占めはよくなくってよぉ!」

……おれってエスパー?
って今はそんな事に首を捻ってる場合じゃなくて!

「どうしよう…コンラッド」

あの人たちに、この姿でいるのがバレたら、どうなるか想像もつかない。…絶対に恐ろしい事になるのは、お墨付きだけど。

「仕方ない。もうちょっと、子供ユーリを堪能したかったけど、彼らを黙らせてきますね」

堪能…? 黙らせる…?
不安を感じる単語をさらりと言ってのけると、コンラッドは廊下でギャーギャー騒ぎ立てている人たちの説得(たぶん…)に向かった。
出る前に一度振り返り、俺以外にその姿を見せないでくださいね、なんて言ってきてさらに、俺が戻るまで鍵を掛けて、誰も入れないように、とも言い残して出ていった。
言う通りにしないとどうなるか、身を持って体験済みなので大急ぎで言われた通りに鍵を掛けた。
扉の向こうからは、絶えず怒鳴り声だとかが聞こえていて。
その日一日、おれにとっての休まる場所が、どこにもなかったのは言うまでもない。



fin

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