ひとこと

□act.3 カンケイは
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「おれはいーから、みんな先食べてきてよ」

その内お腹も空いてきたらおれも食べるから、と笑うと少し訝しげな教育係が考え込む。

「陛下……」

「ん? 何、ギュンター」

不意におれを呼んだ王佐の表情は、どことなく暗い感じだった。
見慣れない顔付きに、胸の奥が不規則に波打つ。

「どうしたんだよ? 変な顔しちゃってさ。せっかくきれいな顔してるのに台無しだぞ」

そのまま空気まで暗くなりそうで、わざとおちゃらけたように笑う。
話題が決してそこへ向かない事を願って。

「陛下…本当によろしいのですか?」

それなのに、どうしてなんだろう。
彼なりに心配してくれてるんだって事は分かってる。
だけどこれはもう後戻り出来ないから。

彼の心はおれの傍にはもういないから。

「―――、何? ご飯の事なら先に済ませちゃって大丈夫だよ。おれも後で食べるし」

「いえ、それではなく私が申し上げたい」

「もー、閣下ってば坊ちゃんがこう言ってる事ですし、先に腹拵えしちゃいましょーよ」

なおも言葉を募ろうとしたギュンターを隠した大きな背中。

「――っ!」


コンラッド。


自然と口から零れそうになった名前に、愕然とした。

無意識だった。

本当に。

「――ッ」

グッと唇を噛み、視線をおとす。
チリッと胸の奥が痛んだ。

「坊ちゃん?」

「ぁっ!」

不意に声と同時に大きい何かが顔の前に現れて、はっと我にかえった。
見上げた先にはどうしたのかと眉をひそめる顔が二つ。
まずいと思っても、顔の筋肉がうまく動かす事はできなかった。

「陛下…」

きゅっとその美形が苦し気に歪んだ。

あぁ…、せっかくヨザックが気を回してくれたのに、全部ダメにしてしまったな。

ぽつりと心の端で呟く。
それはまるで他人が失敗したような感覚を伴うものだった。

「…二人とも先に行っててくれない?」

すぐさま何もなかったように口端をつり上げて言葉を紡ぐ。

「坊ちゃん」

「大丈夫。……おれは大丈夫だよ、ヨザック」

笑ってそれだけしか言えなかった。





ぱたんという音が静かな空間に響く。
ようやくおれだけの時間ができて、少しだけふっと息を吐いた。

「………」

そろりと胸の魔石に服越しで触れる。
と同時にカチッと小さく金属音がして、ビクッと体が跳ねた。

「……………………コン…」

椅子に体を沈めて服の中から魔石と一緒にもう一つ取り出す。
窓から差し込む光に反射している指輪。
コンラッドとお揃いで買ったものだ。
手の中のおれの大切な宝物。

「………返さなきゃ、ダメ……だよな…」

コンラッドにあんな事言ったんだから。
きゅっとそれを握り込んで指の上から口付ける。

本当は返したくない。

でも彼にひどい事を言って突き放したおれがこれを持っているのを知ったら、なんて思われてしまうのか怖いから。

「…ごめんなさい、ごめんなさい」

嘘ついてごめんなさい。
ひどい事言ってごめんなさい。


大好きだよ、コンラッド。


だからサヨナラだ。

おれたちのカンケイは終わりなんだ。



心からあんたの幸せを願いたいと思う。



辛いけど、これがおれの決めたあんたに対する想いの形――…。






to be continued...
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