ひとこと

□act.2 オレたちは
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「陛下。今朝はどうして、一人で走りに行ってしまわれたんです?」

「んー? なんとなくー?」

山積みにされた書類に、一枚一枚長ったらしい署名をしていく。
いつもだったら静かに見守ってるはずの彼が、今日は珍しく話しかけてくる。
原因はおれにあるのだが。

「なんとなくって…。陛下、一人で行動するのはいけないとあれ程」

「あー、そうだ。コンラッド、明日からおれの護衛しなくていいから」

「え…?」

書類に目をやりつつ、頬杖をしながらそう言い渡す。
見なくても分かっていたコンラッドの表情が分からない。
それだけあんたの心とおれが離れてしまったという事。
ぽっかり、空洞が心にあるのを感じる。

「何を……」

「これは命令。大丈夫。心配しなくても後任は、ヨザックがやってくれる事になってるから」

「ユーリ! ちょっと待って下さい!! なんでっ」

「彼女は大切にするんだそ? コンラッド」

おれはうまく笑顔というものを、表現できてるんだろうか?
心にぽっかり空いた穴は、なぜだか笑うのを止めてる気がする。

「ユーリ!? 一体何をっ!」

「コンラッドー? どうしたの、そんなに声をあげちゃって」

噂の彼女がひょっこり現れた。
大方、コンラッドの迎えだろう。

「アリスさん。明日からコンラッド護衛から外すから、二人でどこか行ってくるといいよ」

「待って下さい! ユーリ!!」

「え! 本当ですか、陛下!!」

署名した書類を確認し、そこでおれは初めてコンラッドとアリスさんに目を向けた。
驚愕の色を隠せないコンラッドと、嬉しそうなアリスさん。
嬉しそうな彼女は大きな瞳を輝かせて、それこそ可愛いという表現が似合う。
おれなんかより。

「うん。おれの役目は終わったんだから、いつまでもコンラッドを傍に置いておくのは悪いから」

「ありがとうございます! 陛下!!」

ペコッと頭を下げるアリスさん。
本当に嬉しそうな所を見ると、本気でコンラッドを愛してるみたいだ。
これなら、安心できる。

「と、いう事だから。この話はこれでもう終わり。変更、異議は一切受け付けないから」

分かった?、と目線で伝えれば、コンラッドが唇を噛んだのが見えた。
ああ、この人絶対に怒って夜に押し掛けて来るな。
そう、どこか冷めた心で思った。




オレたちは、もう終わりなんじゃないかな……?





to be continued...
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