ひとこと

□act.5 カノジョは
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『愛してる…ユーリ』


目を閉じれば蘇る、優しさに溢れたあんたの声。
例えそれが、彼女を重ねて言ってくれた言葉であっても、嬉しかった。
例えおれが、魔王で、優し過ぎるあんたが、断れなかっただけでも。

あんたに恋を教えてもらって、おれは後悔なんてしてない。

あんたには、悪いコトしちゃったけどさ。

ちゃんと恋人、いたのに…な。


『愛してるよ…コンラッド』


もう、こんなコト言わないから。

もう、あんたを魔王の護衛から解放してあげるから。

もう、あんたを縛り付けたりなんてしないから。



どうか、幸せに。



『貴方だけを、一生…愛してる』



でも、これだけは許してほしい。

もう、きっとあんた以上に好きになる人なんて、いないから。

幸せだったあの日々を、おれの宝物にしておきたいんだ。
あんたが好きだと、愛してるんだというこの気持ちを。

心の中に、閉まっておきたいんだ。


『おれだって、コンラッドを一生愛し続けるよ』


今はまだ、この事実に胸が痛いけど。

あんたの結婚式の日には、ちゃんと笑うから。
笑って、お幸せに、って言うから。
無理させてごめんな、って。

きっとあんたのコトだから、下手したら自分のコト責めちゃうだろうから。

「ごめんな、コンラッド」


おれ、ちゃんとアリスさんの代わりになれた?


おれ、ちゃんとあんたの淋しさ少しでも紛らわせれた?


ごめんな、好きとか言っちゃって。

ごめんな、愛してるって言わせちゃって。


おれにとって、初めての恋だったけど。


おれにとって、初めて知った愛だったけど。


「ありがとう、コンラッド。…そしてどうか幸せに」

おれはあんたの幸せを、心から願えるようになるから。
だから、おれのコトなんて気にしないで、アリスさんのコト大切にしてあげてよ。

「幸せに…ッ」



おれには、この宝物があれば…生きていけるから。


『愛してる』


この言葉があれば、生きていけるから。










「陛下のおかげで、ドレスも無事に決まりました!」

「いや…おれ、別に何もしてないし…」

深々と頭を下げてくるアリスさんに、おれは曖昧な笑みを零す。
彼女の傍に立つ彼は微笑みをその顔に浮かべて、アリスさんの肩をそっと引き寄せ顔を上げさせて。
自然寄り添うように立つ二人に、どこかがズキンと悲鳴を上げた。
まだおれの心が割り切れてないんだと、情けなさでいっぱいになった。

「結婚式、楽しみにしてるから」

「陛下にそう言ってもらえるなんて、光栄の極みです。ね! コンラッド」

「ああ…そうだね」

楽しみ?

自分で言ったのに、嘲りたくなった。

楽しみって、なんだろう。
こんなにも、お前はナミダを流しているのに。
このナミダを止める方法を知らないくせに。

「あ、じゃおれそろそろ戻るね」

「お忙しい中、申し訳ありませんでした」

「おれがいいよって言ったんだから、アリスさんは気にしなくていいよ」

普通に笑っていられる自分が、むしろおかしい。

悲しいのに。
辛いのに。

笑っている自分が。

手なんて振って、部屋の扉を閉めた。
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