ひとこと

□act.6 さびしいワケは
1ページ/2ページ



大事な子。

この胸の中、心の中、全部、その子が一番愛しいと叫ぶほどに。
あいしてるし、一生隣にいたい。
あいしてる、とっても。
でもその言葉、一言だけでは足りない。

あいしてる、だけでは伝わらないような気がして。
俺がどんなに貴方を想っているか。
俺はこんなにも貴方を想っているのに。
あいしてるに収まり切らないほど、貴方をあいしてる。



ねぇ、ユーリ。



俺のこの気持ちは欠片でも貴方の心に届いていただろうか。
正直、アリスが現れてからのことは辛いものばかり。
俺が伝えてきた今までの言葉は、想いはなんだったのかと。
いっぱい愛してるって伝えて、口付けて、抱き締めてきたのに。
俺のその気持ちは、彼女へのものだったと思えてしまうほど軽いものに見えていたというのか。


あんなに想いを重ね合っていたのに。


にこり、と笑った貴方が忘れられない。
かぁっと、頬を赤らめた貴方に息が苦しくなる。
縋るように首へ腕を回してきた貴方に胸が締め付けられる。
去って行った貴方の背中が儚く、泣いているように見えたのは俺の独りよがりですか…?



ほら、見て下さいよユーリ。
実はこう見えても俺は寒がりなんです。
貴方が俺に背を向けてから、隣からいなくなってしまってからこんなにも寒くなった。

他の誰かじゃ埋まらない穴が、ぽっかり胸の中で口を開けた。



ユーリじゃなければ温まらないし、塞がらないんです。



ねぇ、ユーリ。



あいしてる。










「愛してるよ、コンラッド。ずっとずっと…大好き」

「――」

甘さを含んだ可愛らしいと思える声音。
昔、一緒に剣を構えて、死と隣り合わせで戦った姿からは想像できないくらい女性らしくなった彼女。
こんな風に頬を染めることはなかった。
何かを求めるような眼差しに眩暈を覚え、返す言葉など思い付かないまま、ただ曖昧に微笑んだ。
ぱちり、瞬いた瞼の奥で焼き付いている姿がある。
ぽんぽんと、それより幾分高い位置にある頭を撫でて、ゆっくり目を細めて。
その向こうで沈みかける太陽に、泣いてしまいたくなった。
どうしてと問い掛けたのに、彼の気持ちも、答えも貰えなかったも同然で。
そりゃ、愛してると囁いてきた恋人に実は婚約者がいただなんて、呆れられるには十二分だろうけど。


『おれは……あんたの幸せを願ってるから…』


ああ、その言葉がこんなに痛くて苦しいものだなんて。
さらりとした触れ馴染まない髪の質を指先に感じながら、瞼を降ろす。

「もー、コンラッドってば、焦らしてるの?」

む、としたような声音。
きっと唇でも尖らせてるんだろう。
ゆったりと再び瞼を持ち上げて、零れるため息を呼吸に紛れ込ませ微笑して。
一瞬、視界の端に黒が見えた気がして、ぎゅっと心臓のあたりを鷲掴みにされたように息苦しくなった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ