鋼の錬金術師小説♪

□「無窮の秘匿」1
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赴き闊歩する場所は、『セントラル(中央)軍事司令部』そして目指す矛先は
『セントラル(中央)司令部司令官』。
先程から、執拗に呼び止められたのも・・・黒味の帯びる紺碧の海原(軍服)に、生来の金色を器用に紡ぎ纏めた長髪、
全身を深紅に纏う者が、歩き回るには場所が場所だけに異様な風体であったため。
それが幼く矮小な少年ともなれば、殊更に存在は浮きだつのも仕方がない。
だが、彼も通常の一般軍人とは、些か毛色は違うが・・・大総統府直轄の、少佐相当官の地位に付く、正真正銘の軍人である。
超難関である国家錬金術師資格試験を、僅か12歳という若年で取得した最年少国家錬金術師・・・・・『鋼』の称号を持つ、
『エドワード=エルリック』それが、彼の名だ。
一般市民達の間でさえ、知れ渡る名であるから、多大なる快挙を成し遂げた国家錬金術師を、公然と英雄視する軍属も少なくはない。
だが、年に数度の義務的なレポート提出や実技査定・・・・情報収集、報告書提出では、如何せん金の光沢を纏う幼き少年『鋼の錬金術師』
の実物を知るものは残念だが小数であった。




軍部中心に配置された司令官室を、手荒な所作で開閉すると揚々と室内に参入していく。
国家体制の枢軸でもある建築物の中、誰もが一瞬は畏怖して緊張する軍活動の拠点でも、不遜態度は改まることなどなく
敢えて際立つ金の瞳を細めて狡猾な笑みを浮かばせた。
「ったく・・・・・軍って、何度来ても、面倒くさい場所だよな」
斜に構えた姿勢で前後に頭を掻き毟ると、小脇に大量な書類を抱えた妙齢な女性は、目敏く騒がしく来訪する少年の方向へと
瞳を向けて、柔和な笑顔で会釈する。

「こんにちは、エドワード君・・・・お久しぶりね」
ゆったりした視線でエドを捉えながらも、実働する四肢は見渡す限りの膨大の書類を、軽快なリズムで消化しては、公平な指示に次々と完遂させていく。
さすが、軍きっての才媛を自負するだけあって、思わず感嘆に息を飲む見事な手腕である。

「よっ!!!中尉!!久しぶり」

彼女は来客であるエドと、軽く挨拶を交えてから司令室を退去した。遠方から久方ぶりに現れた懇意であるエドを、丁重な持て成しの準備であろう。
彼女・・・・リザ=ホークアイ中尉の、このとき常に精彩に満ちている後背が、何故か無理に泣き笑う幼児のように、かぼそく小さかった。










「仕事に熱心過ぎるって、いうのも結構良し悪しだぜ??中尉??」

上質な紅茶の葉を選定して、予め暖めたポットに人数分茶葉とスプーンでもう一杯―――――――沸騰したお湯が注がれ、ポットの中で舞い揺れ動く。
少し香り付けに混入されたブランデーが、禁欲を尊ぶ軍事施設には不似合いに漂った。



「あら、どうして・・・??」

ホークアイ中尉の、しなやかで繊細な指先から、ティーカップに注がれる淡麗な紅茶。丁寧に差し出された紅茶は、上等な芳香と絶妙な鮮紅色に
黄色い薄切りのレモンが浮かべられ視覚的にも美しい。
微塵も感じることのない渋みに、濃厚で豊潤な味わいは、まさに賞賛に値する一品である。
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