よろず部屋(テニプリなど

□切なさと陽だまりと
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瞳が潤んでいる、その様子はやはり可愛らしい。俺は何の邪気もない不二の顔を見て、
あれは夢だったのではないか? と思い出してくる。
「よく回し飲みしたじゃん」
その言葉に俺は不二が差し出したドリンクを受け取る。咽喉ごしに冷たい感触が流れていく。
「美味しい?」
そうたずねる不二に俺はこくりと頷いた。何か苦い――そう思った瞬間、不二の可愛らしい顔が
どこか無邪気ながら、俺をからかうように一瞬みた。
騙された! と思ったが、もう後の祭り。俺の意識は闇に沈んでいった。


「ねぇ、どっちがいい? 僕を抱くの? それとも抱かれる方?」
不二が俺の耳元で囁く、体が思うように動かない。
「ねぇ? 手塚?」
その言葉に俺はなんとか瞳をあける。するとにんまりと笑った不二がいた。
「おい!」
俺を押し倒し、その上で不二が笑いながら、俺の手首を押さえ込んでいる。
「ねぇ? どっちがいい?」
唇に暖かい感触、不二の唇が俺に押し当てられた。体が思うように動かない。
「どっちもいやだ!」
俺が怒鳴りつけると泣きそうな顔になってこちらを不二は見た。
「反省したんだよね、だから今日は……僕たち二人っきり」
「何が二人っきりだ!」
「手塚も悦んでいたじゃん」
俺はその言葉に黙り込む、記憶が完全にあるわけではないから、そういわれると言葉に詰まる。
「……」
黙りこんだ俺の耳元で甘く優しく不二は囁く。
「今度は優しくしてあげるから、やっぱり僕が抱くほうがいいね、あの時のように」
にやっと笑い、そして俺の学ランのボタンを一つ一つとっていく。
そしてその下に着ていたシャツを一気に上まで上げる。
抵抗できない、何か意識が霞がかっている――まだ。
可愛い」
不二が笑い、そして俺の眼鏡を外し、また口付ける。
「おい!」
「嫌だったらいいよ? ね?」
そういわれると抵抗できない、甘く優しく甘美に不二が俺に囁く、俺ははぁっと大きな溜息を
一つつき、そして抵抗をやめて不二の優しい瞳の眼差しに囚われ、甘い吐息を一つついた。
「優しくするっていうのは結構難しいねぇ」
不二が、俺の胸に唇をあて、鎖骨から少しずつ下ろしていく。
俺はただ不二が柔らかく優しく笑うのをただ見ていた。
「ねぇ? 僕って優しい?」
そう吐息一つ、不二が俺を見て柔らかく優しく微笑む、俺の口から俺でないような甘い吐息が
漏れる。
柔らかい唇の感触が俺の胸にある。不二の冷たい手が俺の胸を愛撫する。
吐息が漏れる。あの時にはわからなかった感触。
冷たい感触と、唇の温かく柔らかい感触に溺れる。すると不二が「やっぱり僕がいいよね?」
とからかうように艶やかに笑う。
「おい!」
「ねぇ、手塚」
不二が微笑む、俺の意識が闇に沈む。そして俺はその感触に溺れ甘い吐息とともに、
意識が沈んでいくのを感じていた。


「それでねぇ、手塚ったらね、僕が愛しているって聞いたら――あのね、すっごく可愛らしい声でね
とってもとっても僕に甘えてねぇ……」
俺は次の日、皆の前でどうどうと面白そうに話す不二を見て、背後から大声で怒鳴りつけた。
「おい、お前らな!」
「賭けは僕の勝ち!」
あははははと不二が笑う、俺は不二が瞳を細めて笑う姿を見て昨日のことを思い出す。
「お前ら! 校庭100周!」
皆がぶうぶうと文句を言う、不二は「はいはい」と頷き、校庭へと去っていく。
「不二、お前のせいだ、しかし手塚が不二にねぇ……」
乾が瞳を細めて、俺を見る。そして不二の後に一同はぶうぶうと文句を言いながら、走り去っていった。
「いつか僕だけのものにしてあげるからね」
ウインクを一つして、大声で不二が叫ぶ。俺は顔を真っ赤にして、
「追加で100周!」と怒鳴りつけた。少し頭ががんがんするが前のようではない。
俺はテニスラケットを手に皆にいつものように怒鳴りつけ、そして明るい太陽の下、
笑いながら走り去る不二を見ていた。いつまでもいつまでも……。
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