鋼の錬金術師小説♪

□「無窮の秘匿」1
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比喩的表現で例えれば、『熊と子鼠』の睨み合い。

セントラル(中央)司令本部で、久方ぶりに訪れた少年と、ある警備担う憲兵の巡回中の、
密かな衝突であった。
少年より遥か軍人らしい屈強な身体で、対面する少年の進路妨害に巧みに利用しては頑なに
塞き止められる。
少年の眉間には深い皺が刻まれ、閉じられた瞳の目尻には青く静脈を浮きだたせ
激しい怒気を匂わす。少々目つきは悪いが本来小柄で幼い容貌は、今は見る影もない。
限りなく最上に近い険悪さ。
発する空気は、周囲すら凍結させる冷気の勢いがあった。

しかしそれでもまだ、激しい気性に、傍若無人で好戦的・・・・と定評のある年若き国家錬金術師にしては・・・・
我慢強く耐え続けている方で。
にやにやと薄笑い、『尋問』という名の甚振りに、厭きれば高慢な態度で少年を野良犬の如く追い払おうと、恫喝する始末。

典型的な権力を嵩にきる、国家従属者――――――であろう。
自らの保身には聡いのだが、それでいて実力はない無能な人種だ。
少年は冷ややかに値踏みして、辛辣に罵る。
一触即発へと、場を益々暗雲に立ち込めさせた。
コノ場に直面する者がこの少年でなかったとしても、愉快でいられる者もいる筈はないのだが。


だが深い溜息に憤怒を沈め、チラリ・・・・・と上目遣いで一瞥すると手馴れた仕草で呈示する大総統紋章。
六芒星あしらわれた厳格な『証の銀時計』。

「ほら・・・・これで文句ないだろ!!」

警固兵の居丈高で威勢は忽ちに消失し、驚きに目を見開いて、憲兵の全ての動作は停止する・・・そして存分に動揺した後
先程とは俄然、真逆の慇懃な敬礼が行われた。
あまりに屈託のない豹変振りには、暫し呆れはするが反面、ある種の小気味よささえ感じさせられる。



(まさに、『軍の狗』だな・・・・・)

溜飲が消失して、怒りが一気に軽減した・・・・・という訳ではないが、沸騰した血液は徐々に下降して正常値に近き、落ち着きを取り戻した。
軍事中心国家で我が国では、何時如何なる場合も強大な権勢は、大身の地位で全てが決まるといって過言ではない。

(じゃなきゃ、俺にしつこく絡んどいて、階級が判ったとたん、敬礼するたぁ軍人だよ・・・まさしくな――――――――)

少年は多少の煩わしさに苛立ちはしていたが、格別今は・・・憲兵を蔑んだり悲観した感情はなく――――――――ただ、事実を漠然と思い巡らし感慨しただけだ。





軍事が全てを統括するこの国では、階級が上位で有ればあるほど権力や特権が集約され、下位で有ればあるほど、忠誠を尽くして服従を誓う。
そう、それは『尾を振る犬』かのように。一瞬に態度を軟化させる矜持のなさは、いっそ見事と褒め称え、露骨な媚態はご愛嬌・・・と、皮肉に一笑を伏せる程度の事柄。

『恩恵』=『奉仕』の関係は、錬金術の源『等価交換』に倣う真実である。



自嘲の笑みが思わず毀れるのは『同類嫌悪』か。
見えない・・・・・だが決して外れぬ『枷鎖』に繋がれし『軍の狗』。
それは―――――――純然たる真実であった。
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