よろず部屋(テニプリなど

□壁の向こうの少年皐月かなめさん作
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壁の向こうの少年(前編) 作者 皐月かなめさん
日中から、小雨降り付く不安定な空色が、遂に本格的な土砂降りへと変化している。
耳障りな雨音は学園内に、ポツリ・・・と灯る部室内へと響き渡っている筈なのだが・・・・・・
只ならぬ不穏な空気流れる室内で・・・耳を傾けるものなど皆無であった。


好からぬ秘め事に耽る彼らに―――――――――――――――


「今日は・・・・どんな趣向で・・俺らを楽しませてくれるんの??・・ねぇ・・不二先輩」

不遜な態度で挑む、脅威の天才ルーキー。
余程自分に自信があるのか・・・彼は何時如何なる場面であろうと、高飛車で傲慢な態度で
他者の神経を逆撫で挑発する・・・いささか問題ある性格を改めようとはしない。
鋭い眼光で挑むように、不二を見詰めて来る。


(君は、順応性が高すぎるよ・・・多少は、可愛らしく『うろたえる』とか『怖がる』とか態度を見せればいいものを)

既に秘め事を、積極的に仕切ろうとすら見受けられる・・・生意気な子供に内心辟易しながらも
不二は、表面上は蕩けるような優しい微笑を崩すことはなかった。


「ケッ・・・・この間、初めて参加した新入生が、もう先輩を指図するなんて何様のつもりだ・・」

日頃から、犬猿の中である海堂が憎々しげに毒付く。


(フフフ・・・そうだね・・・ずいぶん君は可愛かったよね。海堂の最初の頃なんて・・・)

不二の脳裏に、参加当初の海堂の記憶が蘇る。

(まぁ・・・彼だけじゃないけど・・・・・)


そう・・・ここに、いる者の皆が最初は、動揺に我を忘れ恐怖に慄き、下手な正義感で不二を弾劾し
強い口調で罵った。

生物的見地から、間違った性交を批判する。
倫理的感知からの、存分と意見も喰らった。

だが・・・・・人心を的確に掴む事に長けた不二の弁舌が
人、本来がもちいる本能を刺激して、惑わせる・・・・・人格を崩壊させる。
不二の深い深い漆黒の闇に、魅入られな暗躍に――――――――
唆(そそのか)される。


甘い・・・・甘い・・・・悪魔の誘惑・・・・
時が経つに連れ愉悦に麻痺した神経が・・何の疑問を抱かさなくなるまで堕落させることなど
不二にとって・・・赤子の腕を捻る事に等しい所業であった。
だが、それも類稀な上質な美貌の生贄が有ってこそ・・・・・・成立する饗宴である。
全ての人を惹きつける、彼がいてこそ、皆が人外へと堕ちていくのだ。








「まぁ・・・お前ら、喧嘩なんかしてる場合じゃないだろ。・・・それより、不二何時までも
出し惜しみするな――――皆が焦れて苛立ち始めている。」

冷静に皆の内心を正確に推測する、乾も気が逸っているのか幾度と無く、鼻筋に当たるバッドを
押し上げ眼鏡の角度を数℃変化させた。

乾の野暮ったい分厚いレンズの奥深くに、どれほど欲望に醜悪に歪んだ瞳が存在しているのか・・・・
想像するだけで、心の奥底で蠢く闇が期待と喜びで背筋をゾクゾクさせる。
全快の微笑みのまま、部室の壁際に目線を向けると・・・・・不二と目を合わせるのが怖いのか
反射的に反らされる数個の瞳。
反らしながらも、今後の動向が気に成るのか、直ぐに此方を伺うように控えめに視線を向ける。
何度参加しても・・・・・慣れぬ仕草で居心地悪そうに身を縮めている・・・

大石と河村。

彼らは最後まで手垢の付いた正論で反論し続けてはいたか、結局本能に負けた中途半端な。
偽善者。


面白い――――――――――――どのような、思想・・態度をもちいたとしても、僕の掌で踊る哀れな
人形達。

(いや・・・・手塚と僕の人形達かな)


只じっと静かに座っている手塚の身体が、稀に小刻みに身を震わせる。
縋るように、不二を見詰めている。

確実に・・・・何らかの悪戯が手塚の体内に仕掛けられ、苛んでいるんだろう。


縁の無い薄いガラスの最奥で、熱に浮かされた瞳が・・・痛みの為か・・羞恥の為か・・・
愉悦の為か・・・哀れな生贄は、涙を瞳に溢れさせ睫に伝い落としていった。


「・・・・・・もっ・・・・・不二・・・・・」

「何???もう、我慢できないの手塚。堪え性が無いねえ・・・」

自分の思惑通り動く手塚に満足して、不二の楽しげな嘲笑が室内に、木霊する。

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