06/10の日記

10:50
闇属性
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「ククク…アーッハッハッハハハハ!!イイ…!もっと楽しませてください…!」

血に狂ったものなどこの戦国の世において大して珍しい者ではなかった。まぁ、血に狂った者は皆早々に自滅するため、ここまでのさばった狂人も珍しいかもしれないが。

「おっかねぇ御仁だねぇ…」

木の上からその者の凶行を眺めながら嘆息する。今回の任務は偵察だけなので、接触の必要性がないことに感謝した。オトモダチにはなりたくないなぁと思う。

「おや…血の臭いがしますね…」

決して近くにいるわけではない。あれほどの力量を持つ武将ならばいくら気配を絶とうとも悟られてしまう場合もあるから、今回佐助は慎重に事を行っていた。決して気取られるはずがなかった。だというのに、彼の目は確実に自分を捉えている。
どういうことだと、口の中がひどく乾いた。血の臭いなどするはずはない。臭いを消す作業を怠ったことはないし、今日はまだ一度も血を浴びてはいなかった。

「怨嗟の声が満ち満ちた血の香りです…いいですねぇ、私など到底比ぶべくもない……よほど恨みを買って殺したのでしょうねぇ…嗚呼」

彼の赤い唇がにんまりと弧を描く。佐助は嫌悪に身を震わせた。

(「あなたの身体…血に染まって真っ赤ね…」)

いつかの姫が言った言葉が思い出された。信長の妹君だったか、彼女は仄暗い水底のような目で、佐助の背後をじぃと見ていた。その様子にどうしようもなく怖気が走ったのを覚えている。今の状況は、それに良く似ていた。

(冗談じゃねぇ…!)

みつかっては厄介だ。即座にその場を離れる。もちろん音を立てるような愚は犯さないが、彼はおそらく気づくだろう。どこに逃げたか、どこに潜んでいるか。

「同属ってのは、厄介だねぇ…」

ぞわぞわと背筋を這う、一種の快感にも似たそれを感じながら、佐助は少しでも早くその場を離れるため足を動かした。道中出くわした足軽の首を、一呼吸する間に刎ねながら。
血に狂って自滅するなんて結末は願い下げだった。

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