02/04の日記

04:33
さらに続き
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ルークは変わった、と皆が言う。
過去はそれはそれは我侭放題唯我独尊、常識知らずのお坊ちゃんだったそうだ。今の卑屈な方が大人しくてよほど良いと。どれだけ嫌われていたのか、あのレプリカ坊ちゃんは。
「ガイ」
伺うように向けられる視線が不愉快だ。視線を外せば目に見えて落ち込む。そうすれば慰めてもらえるとでも思っているのだろうか、忌々しい。
「…ルーク坊ちゃん」
「ルークでいいよ、敬語もいらない」
「ならルーク、」
パァ、とレプリカの目が喜色に輝いた。その様子に戸惑いながらも続ける。
「これからどうするか聞いてもいいか」
「あ、うん…とりあえず魔界の液状化をどうにかするために装置を作ってもらってるんだけど…それを地核に降ろす作業を」
「ふぅん」
意外としっかり受け答えできるようになっているじゃないか。あの赤子同然だったのがここまで成長するとは、と少しレプリカを見直す。レプリカの成長速度はなかなかに侮れないものがあるんじゃないだろうか。
「ガイ…、俺達についてきてくれるのか?」
「現状がまだ掴めていないし、今更放り出されても困るな…足手まといでなければついて行きたいんだけど」
「そんな、全然!ガイが俺に付いて来てくれて、嬉しいよ」
ほっと表情を綻ばせるレプリカに、ガイは何も言わず、ただ微笑んだ。
特別なことじゃない、屋敷ではいつもしていた作り笑い。そんな笑みに無邪気に喜ぶレプリカが一層哀れだった。





「ッふ、」

ギリギリに魔物の攻撃を避けてその勢いのまま刀を突き込む。おぞましい悲鳴をあげて魔物は地に臥した。赤黒い体液を飛ばしながらも痙攣するように動いている。
トドメにもう一突き刺し込めば、今度は完璧に動かなくなった。
顔や身体についた魔物の体液が気持ち悪く、顔を顰めていたらばいつの間にかマルクトの軍人が近くまで来ていた。まじまじと観察されて居心地が悪い。

「やっぱり21のガイに比べて戦闘力は劣りますねー」
「…すみません」
「ジェイド!しょうがないだろ、このガイはまだ15なんだし!」
「その通りですわ!15の齢にも関わらずここまで戦えることこそ評価すべきではありませんこと!?」
「そうですね、戦闘に慣れてないはずの使用人にしてはよく動きます。それは認めましょう」
「大佐、その言い方はあんまりです!」
「おや?私ひとりが悪者扱いですか」

再び言い合いが始まり、ガイはそっとため息を吐いた。あのマルクトの軍人…ジェイドと言ったか。なんとも大人気ない大人だ。
しかし、力量不足は誰より、ガイ自身が感じていたことだ。周囲に比べての圧倒的な経験値の不足、そして純粋な攻撃力や体力、諸々の不足。まだ身体が出来きっていない自分には一撃必殺の攻撃など出せないし、シグムント流派の奥義だって未修得だ。せめて足で引っ掻き回して急所に入れるくらいしか手はないが、それだと体力を余分に使い誰よりも先にバテてしまう。
(せめて譜術が使えればよかったんだが…)
自分には素養がない。そもそもシグムント流派と譜術は相性が悪いのだ、それににわか仕込みの術でこれから先やって行けるとは思えない。
兎にも角にも、経験あるのみだろう。と気合を入れなおした所で、再び戦闘が始まっていた。盗賊崩れのような風体の悪い男共。
ふぅ、とひとつ息を吐いてガイは走り出した。レプリカが何か叫んでいたが知るものか。刀を逆手に持ち直して男の腱を切る、続いて腕の筋も。最期に首に刀を突き立ててフィニッシュ。人間相手は急所が分かりやすいから楽だ。硬い外殻に覆われているわけでもない。

「……ガイ」
「…なにか」
返り血を拭いながら振り向けば、皆が一様に複雑な表情をしていた。何か自分はやらかしてしまっただろうかと首を傾げれば、レプリカは「なんでもない」と顔を蒼くして歩き出す。疑問に思いながら自分もそれに続く。

「ガイ」
「はい」
マルクトの軍人だ。また何か言われるのだろうと身構えたが
「躊躇いのない、見事な殺しぶりでした」
それだけ言ってさっさと行ってしまった。そしてその言葉に女性陣がびくりと震えた気がする。気のせいだろうか。
訳が分からない。首を傾げながら、ガイは刀を払って鞘に収めた。赤い血糊が地面に吸われていく。



「…ナタリア、顔色が悪いわ」
「わ、私…あんなガイは知りません…あんな…ッ」
「…うん、なんかあのガイ、怖い……」
「……行きましょう、ルークたちに置いてかれてしまうわ」
「…ええ」

あんな、鮮烈な狂気を湛えた瞳を、私は知らない。

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