03/02の日記

20:21
二周目な彼ら
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親善大使と名乗るだけなら誰にだってできる。
我侭放題に育てられた王子サマは果たして己の責務を理解しているのか、血筋と肩書きに甘えて威張り散らすその様はまるきり幼い子供だ。
ああ、つまり幼いのだ。ずっとずっと狭くも柔らかい籠の中で可愛がられてきたお坊ちゃん。外の世界の風の冷たさなんて考えたことも無いんだろう。

「うぜーんだよ!お前は俺の言うこと聞いて炎吹いてりゃいいんだよ!」
「みゅうううううう…」

自分より弱い生き物にああまでみっともなく怒鳴り散らして、恥ずかしくは無いのだろうか。

「ほーんと、金と地位が無かったら価値ゼロだよ」
「おやおやアニース?本音が口から零れてますよ〜」
「はぅあ!た、大佐〜なんのことですかぁ?アニスちゃんは今日も恋する可愛い乙女ですよ〜!」
「まぁそういうことにしておきましょう。概ね、その意見には私も賛成ですから」
「あー、まぁそーですよね〜…そーとー心のひっろーい人間じゃないと相手にできないってゆーかぁー」

ちらりと後方に視線を向ければ、件の相当心の広い人間が苦笑と共に、でもなぁ、なんてフォローを入れる。ああ本当に心の広い男だ!

「あいつだって、その…戸惑ってるんだろう。初めての外の世界だ、大目に見てやってくれないかな」
「ほんっとガイってばお人よし〜」

あ、もちろんアニスちゃんはルーク様のこと大好きですよ?と慌てて付け加えたら嘘くさいですよアニス。と大佐につっこまれた。慌てて前方を伺うが、どうやらティアに何か言われたらしい。不貞腐れたその様子に、こちらには注意を向けていないことが分かる。ああ、しかし少し窘められたくらいであそこまで不貞腐れるなんてどこまで幼いんだろう!

「コツがあるんだ」

ぽつりと落とされた言葉にとっさに反応できず、少し面食らう。
まぁ、慣れってのもあるんだけど、と前置きをしてからさらりと告げられた言葉。

「いつかはこの世間知らずも痛い目を見てその自慢の傲慢な鼻っ柱がベッコベコになるんだと思えば」

少しは溜飲が下がるだろう?

いつもの笑顔でにっこり爽やかに言われればはいそうですねと素直に頷く以外にどうしろと言うのか。ああ、顔が引き攣る。隣に立ついつも冷静沈着な大佐殿の顔をうかがえばそりゃあ見事に固まっていた。大佐のそんな態度初めてみちゃいましたぁなんておどけて言える空気でもなく、一体どうしろと!

「おいガイ!何ちんたらしてんだよ!!」
「ああ、悪いルーク。今行くよ」

颯爽と走る後姿を見ながら、溜息を吐いた。奇しくも大佐と全く同じタイミングで。

「……アクゼリュス、かなぁ」
「……カースロットかもしれません」

何にせよ、小鳥の住む狭く柔いはずの篭には、ひっそりと劇薬が仕込まれていたようだった。

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