02/22の日記

12:38
猫の日だし
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とある街、裏路地の陰に猫がいた。
黒い、みすぼらしい野良猫。そのくせ眼だけはぎらぎらと青く光っている。





「がいっ見ろ!ねこ!!」
「あぁ…」

どこから入り込んだのか、ファブレ邸の庭の片隅に黒い猫が住み着いた。
初めて見る生きた小動物にルーク坊ちゃまはそれはそれは興奮してはしゃぎまわり、メイドたちのぬるい視線の中、毎日庭に行っては猫を観察し続けた。
身重なのか、腹が大きく膨らんだ黒猫は無粋な観察者など一切無視をして、日陰の涼しい場所で日がな寝ている。一度ルークが無用心に近付いたが、小さく威嚇をしただけで、すぐに眼を瞑ってしまった。或いは攻撃を仕掛ける元気も無かったのか。
そんな穏やかに停滞していた日々の中、ルークが一層はしゃいで駆けて来た。ずいぶん上手く走れるようになったものだ。こないだまでは歩くことはおろか、立つ事すらできなかったというのに。

「がい!!すごいんだ!ねこがふえた!!」
「はぁ?」

要領を得ない坊ちゃまの説明に笑いながらメイドが言うには、あの黒猫がとうとう子供を産んだらしい。
特に飼い猫というわけでなし、残飯を置いておくくらいで世話らしい世話なんてしていなかったが、新しい命の誕生と言うのはどこかしら心を温かくするものである。
そうか、よかったと笑えば、ルークが満面の笑顔でよかった!と真似る。すべての記憶をなくしても、命の重みと言うのは分かるのだろうか。赤い頭をくしゃりと撫でた。
見に行こう!と手を引かれるまま庭に行ったら、いくつかの毛玉が黒い親猫の腹に頭をつっこんでいる。まだ眼も開かない様なちいさなちいさな命。傍らでルークが小さく息を呑んだ。この光景に何を感じたのか、気にはなったが聞くことはしなかった。親猫は仔猫を舐め、乳を与え、慈愛の表情を浮かべているようだった。猫の表情なんてわからないが。
不意に、ふらりと傍らの気配が動く。しまったと思ってももう遅い。
油断があった。この猫は比較的大人しかったし、ルークだって猫には決して触らないように言い聞かせていたから。
失念していた。幼児は何にだって手を伸ばす。

子持ちの親は猫に限らず過敏になるものだ。猫は悪くないし、不用意に手を伸ばしたルークが悪いとも言い切れない。言うなれば油断していた俺の責任なんだろう。泣き喚く坊ちゃんをあやし、手に付けられた傷を消毒する。傷は決して深いものではなく、軽い威嚇のようなものだったことがわかる。ただ、この家の嫡子を傷つけてしまった以上、もう隠しておくことはできない。
ラムダスには秘密、これは暗黙のルールだった。あの厳格な執事は薄汚れた猫を庭においておくのを良しとするはずもないし、なんせ坊ちゃんを傷つけた。

「殺せ」

それは予想通りすぎる命令で、下されたのは俺だった。これは罰なのだろう。

弱った猫を殺すのなど簡単だ。桶に水を張って沈めればいい。
生まれて間もない猫など押さえつけずとも、放り込んでおけば勝手に溺れる。ちぃ、と弱弱しい声が聞こえる。耳を塞ぐことはしなかった。
あぁ、ルークがが泣いている。怪我の治療といって今日は一日部屋から出してもらえないと嘆いていた。猫が見たいと、猫に会いたいと泣いている。
手早くゴミ袋に動かなくなった猫を入れる。親兄弟皆殺し、いつか再び、自分はこれを繰り返すのだろうか。あの赤い頭を、髪をこんな風に無造作にゴミ袋につめて?なんだか可笑くて、笑い出しそうだった。
ちぃ、と弱弱しい声がゴミ袋の中から聞こえる。見下ろせば仔猫がもぞもぞと動いている。どうやら一匹殺し損ねたようだ。やれやれ、と仔猫を取り出そうとすれば、ゆっくりと仔猫の目が開かれた。見えているのかいないのか、こちらを真っ直ぐ貫く猫の目は、どこかなつかしい青い眼をしていた。
親兄弟を殺した殺人鬼が目の前で、自分を見下ろしているのだ。この猫は俺を恨むだろうか。いつしか俺を殺そうと牙を研ぐのだろうか。かすかに笑って、そのままゴミ袋を緩く縛った。仔猫一匹くらいなら抜け出せるくらいの隙間を空けて。




あの時の猫はどうせとうに死んでいるだろう。眼が開いたばかりの猫が一匹で生きていけるとは到底思えない。だが、あの猫も、こんな目の色だったように思う。
まさか俺を殺しにきたのだろうか、笑えない。

「なぁ、お前はちゃんと殺せるのかな」

ちゃんと、憎しみを忘れることなく復讐を遂げれるのかな。

「俺は、できなかったよ」

もう癖になってしまった、苦笑と自嘲の真ん中のような笑みを浮かべて猫を見た。
微動だにしない猫、これがあの時の猫だとは思わないけど、そうであればいいと思う。
俺は実は殺して欲しいんだろうか?償いをしたいのだろうか?

「ガイ!何してんだよ!」
「あぁ、悪い。今行く!」

頭を振って、もう一度猫を見た。猫は陰でじっとこちらを見ている。
どうだっていいか。
今はただ、ヴァンの元へ。









う、わぁ………
猫がどれくらいで目ぇ開くようになるんかなんて知りませんよ。気合だよ気合!
締め、ちょう投げやり!どうだっていいのかよ!ごめん!
せっかくのにゃんにゃんにゃんの日なのに…もっとほのぼのさせるつもりだったのに…!
殺すつもりなんてなかったんです……!(カツ丼持ってきてー)

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