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□コスプレ
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零一の誕生日を祝うために勝手に部屋に入り込んでいた秋は、いつもの見慣れた部屋の中、隅に置かれた見慣れない大きめな紙袋がとっても気になっていた。
部屋には秋一人しかいないのだが、部屋の隅にコッソリと置かれていた袋を堂々と暴くのは躊躇われ、覗き込むように中を探る。
――服?
予想外のものに自然と首を傾げる。
手にとって広げてみた服になんだか見覚えのあるような気がしてしばらく眺めていたが、ふとどこで見たのかを思い出してにんまりと笑みを浮かべた。
秋が部屋に入り込んでから2時間ほど、部屋の主である零一は帰ってきた。
「秋っ!!」
窓から漏れる明りに勝手に入っている人物の見当をつけ、ガチャリと音をたててドアが閉められると同時に怒りを含んだ声を押さえ気味に、だがハッキリとあげる。
「はいはーい、何?」
奥の方からは悪びれない返事が返り、さらに零一の怒りを煽った。
「勝手に入ってんじゃねえ!」
「だって入んなきゃ準備出来ないでしょ」
「準備なんていらねぇし、とっとと帰れっ」
「そんなこと言っていいのかな〜、“ザギ特製おいしくて保存の利く料理”いっぱい持ってきたのに…」
“ザギ特製”と“保存の利く”の二言に心惹かれつつ、姿を見せた秋に視線を送った零一は一瞬言葉を失った。
「おまっ、準備って…何してんだ?」
「へへ、似合う?」
そう言ってポーズをとる秋の格好はやたらと露出の高い派手なもので、着物のようだが丈は短く、腰には大きなリボンが揺れている。しかもどうみても女物だ。
普段は女と間違われることに極度の嫌悪感を露にする秋がどうしてこの格好をする気になったのか…疑問が一瞬頭を掠めたが、格闘ゲームのキャラの衣装を忠実に再現しているソレがどこにあったものか思い当たり顔を顰めた。
「勝手に人の部屋漁るな…」
「いいじゃん、別に減るもんじゃないし」
「そういう問題じゃない」
「そう?それより、コレってゼロイチの趣味?」
ワクワクしたように訊ねてくる秋の声にはからかいの色が多く含まれていて、その気配を敏感に感じ取った零一は冷静に反論する。
「そんなわけねーだろ」
「そうなの?こんなの持ってるぐらいだし、てっきり好きなのかと思ったよ」
ゼロイチが喜んでくれると思ってせっかく着たのに、と言ってくるりとターンをしてみせた秋はさらに零一に近付いてきた。
「誰が喜ぶかっ」
そう言う零一の顔は真っ赤だ。
「じゃあ、何で持ってんのさ?」
「人から頼まれたんだ!」
近付いてくる秋から離れようとジリジリと後ろに移動する。
「預かってくれって?」
「いや、作ってくれってっ…」
そこまで無意識に言ってから喋りすぎたことに気付いた。
「へぇ〜、ゼロイチが作ったの?」
目を丸くして自分の着ている衣装をしげしげと眺める秋の姿に、零一はさらに苦い顔になって溜息をついた。
「お前、ゲーム詳しいのか?」
「格ゲーはリベザルが好きだから付き合いで。」
この服を覚えてたのは偶々だけど、という秋の言葉に誕生日だというのにつくづく自分の運のなさを実感してしまった零一だった。
2007/5/30
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