死神の手帳(デスノート)

□リュークの恋人
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「リュ―君♪」
「その呼び名やめてくれよな、ライト」
 楽しげな顔でライトが笑う、俺は少しいやになる。林檎を片手にライトが笑うときはろくなことをいってこないんだ。
「どうして林檎なんだ?」
「はあ?」
「イチゴとはスイカじゃだめかい?」
 林檎をぽんとライトが空中に放り投げる。俺はあわててそれを受け止める。
 おかしげにライトが腹を抱えて笑う。
「必死だな」
「……林檎は俺にとってはこう何と言うか……」
「恋人のようなものだね」
 林檎をしゃりしゃりとかじる俺をクスクスと笑いながらライトが見る。
 林檎は俺にとっては煙草のようなものだ、しかし煙草……恋人ともいえるのか?
 それがなければ生きていけないから。
「恋人か……」
「リュ―君♪ 林檎これからはあげられないから」
「どうしてだライト!」
「ああ林檎ばっか買うなって母さんに言われたから」
 こともなげに言い切るライト、俺は絶望的な気分になる。
 カメラの次は母さんか? 林檎なしの人生なんて俺は絶対にいやだ!
「ライト、何とかしてくれ」
「……じゃあエルの名前教えてくれないかな?」
「駄目だ」
 俺は林檎をしんまでかじる。そして何とか身のうちの誘惑に逆らう。
 俺の恋人の林檎よ、しかし死神の掟には逆らえないんだ。
 最期の一個の林檎よ、恋人よ、俺の……さようならか?
 俺がこんなことを思っていると、椅子に座ったままのライトがげらげらと本格的に笑い出した。
「その笑い方やめたほうがいいぞライト」
 あ〜はは、と笑うライト、はっきりいって美形が大口あけて笑う姿は間抜けだ。
 しかしライトにこんなこといったら怒られるから俺は黙っておく。
「……冗談だよ、冗談」
「へ?」
「リューク、恋人はまだまだ沢山あるよ」
 足元においた紙袋から真っ赤な林檎を幾つもライトは取り上げる。
 片手でぽんとそれをとり、俺に向かって放り投げた。
「ほら」
「おお!」
「今日エルが僕にくれたんだ」
「へ?」
「……死神――は林檎好きって文思い出したから、僕にくれるそうだ。どんな嫌味のつもりなんだ?」
 苦虫を噛み潰したような顔でライトは俺を見る。エルってやつもやるな、キラではないか?
と疑っているライト相手に超一流の嫌味をやったわけだ。
 俺はうんうん、と頷きながら、わが恋人の林檎を手にしゃりしゃりとそれを食べる。
「全部食べていいよ、これ見てるとむしゃくしゃするから」
「おお!」
 今日だけは俺はエルに感謝だ、わが恋人の林檎に出会えたのだから。
 俺はにやり、と笑いながら、ため息をつくライトの隣で恋人を食べつづけた。
 いつものようにライトがデスノートに悪人の名前を書くのを覗き込みながら。
 いつものようにライトの部屋で俺は恋人と出会う。
 わが恋人の――林檎たちと。
 

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