死神の手帳(デスノート)

□マリアの願い
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この世界は醜い、世界は歪んでいる。正しいものが報われない。
 僕はそんな世界が許せなかった。ただそれだけだ。
 うじ虫達は僕は許せない。絶対にこの世界は正してみせる。
 悲しみも嘆きもない世界にしてみせる。そのためならどんなことでもするさ。
 嘆きも苦しみも切なさも……知らない。
 ほんの時々、苦しくなる時もある。そして悲しくなる時もある。
 その時僕は昔出会った天使のことを思い出す。
 切なさも悲しみも彼女とともにあった。だから今の僕は死んでいるのだ。
 デス・ノートに名前が書かれずとも、今の僕の魂(こころ)は死んでいる。


「どうしたライト?」
「……夢を見ていたよ、リューク」
 懐かしい夢だ。と僕は苦笑する。遠い昔飛び立ってしまった天使の夢だ。
 僕の腕から飛び立った、優しい天使。
「どんな?」
「……天使が獣に殺される夢さ」
 白い肌に伝う真紅、そして最期に笑ったあの人の笑み、思い出すだけで辛くなる。
 どうしようもない奴らは、生きているっていうのに、あの人はもういない。
 どうしようもない奴ら、生きていても仕方ない奴ら、人殺し……犯罪を起こし、何の罪もない人々を殺す……どうしようもない悪人ども。
 コロシテヤル、と思う。あんなの生きていてもしょうがないのに。
 世界は……あんな奴らをのうのうと生かしている。
 なら神などこの世界にはいないのさ、僕はそう思う。
 ベッドに寝転がりながら、僕はデスノートに悪人の名を書いていく。
 奴らの顔と名前はもう完璧にこの頭に入っているから。
「なあライト?」
「なんだいリューク?」
 空中に浮かぶ死神に僕は苦笑しながら答える。彼は真っ赤な唇を開けて、そして聞く。
「なあ、お前どうして神になろうと思ったんだ?」
「答えは簡単さリューク」
「はあ?」
「だってこの世界に神がいないのなら、僕が神になればいい、そしてどうしようもない奴ら、人間のクズどもに断罪を与えてやればいいのさ」
 死神という名を持っていてもリュークは【神】ではない、それは僕がよく知っている。
 リュークは手に持った林檎をかじりながら、ふ〜んといつものように相槌を打つ。
「原罪って知ってるかライト?」
「リューク?」
「人間は生まれながらに罪を持っているってやつだ」
「ああ知ってる」
「ならライトも罪人じゃないのか?」
「……違うさ、リューク……あの人は天使だったよ。僕が知るあの人は生まれながらの天使だった」
 淋しそうな目を貴方しているわ、と言った天使、今はもういない天使、その人のことを思い出すたび、僕は切なくなる。
 僕は軽く瞳を閉じる、そして傍らにデスノートを置く。
 目を閉じればほら、思い出す。あの人のことを。
 そして人間のクズ、ごみに出会った時のことを僕は思い出す。
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