死神の手帳(デスノート)
□夜の紅
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「中尉、何をやっているんですか?」
「お手、おかわり、そして最後はお座りよ」
「ブラックハヤテ泣いてますよ?」
「鳴く……の間違いではないの?」
私は話しかけてきたハボック少尉の言葉にただ淡々と答える。
ハボック少尉はブラックハヤテ号の方を見て深いため息をついた。ブラックハヤテは床にお座りの姿勢のままずっと存在する。
私の言葉を聞いた後、ずっとその姿勢のままブラックハヤテは私を見上げていた。まるで置きもののようにずっと同じ姿勢で。
ハボック少尉の言葉に薄い笑みを私は返す。ブラックハヤテはそのまん丸な目をくりくりさせて、愛らしく私を見上げている。
マモラナイトイケナイ存在……。それを守るために今の私がある。
ナニヲ?
守るために力が欲しかったのだ。ただ力が欲しかったのだ。
あの人を守るために今の私がいる。あの人を守るためだけに今の私が存在する。
そんな言葉が私の中でリフレインする。
「ホークアイ中尉?」
ハボック少尉はブラックハヤテにお手、をしながら私の方を訝しげに見ている。
「考え事なんて珍しいですね、勤務中に」
「昔のこと、考えていたのよ」
小さな小さな存在は守らなくてはいけないもので、そしてその小さな小さな存在は私の中で昔の私を思い出させるもので、私の中の小さい小さい私はただ泣いている子供。両親を思い、ただ泣いている小さな子供。
あの人を守るために今の私がいる。あの人のために今の私は存在する。
「ブラックハヤテ、あなたは何を考えているの?」
私は椅子に座り、そして目の前で少尉の手に小さい黒い前足を乗せるブラックハヤテ、小さい黒い犬に問いかけてみる。
答えは鳴き声で返ってくる。
「くう?」
「今日何か変ですよ、ホークアイ中尉は」
ハボック少尉は私の方を見てほろ苦く笑う、
ブラックハヤテを時々、彼が餌付けしようと、昼食の残りなどやっているのを私は知っている。教育に悪いからやめてくれ、という言葉も彼には届かないようだったが……。
「どういう風に変なの?」
「泣きそうな顔をしているな、と思って」
「そんなことないわ」
いつもの私になれない、そう今日だけはいつもの私になれない。懐かしい懐かしい遠い昔、そばに優しい私の大切な人たちがいた大事な時間、それはもう遠くて、ただあるのは懐かしい過去(ゆめ)だけ。
思い出してはいけないよ、胸が痛くなる。
思い出してはいけないよ、胸が苦しくなるから。
駄目だよ、リザ、駄目だよ、思い出してはいけないよ。
「中尉?」
「……昔ね、小さい黒い犬を飼っていたのよ」
「へえ」
「躾には苦労したわ」
「今は?」
「違う人の躾に苦労しているわ」
「へえ」
ハボック少尉はにやりと笑う、金髪を掻き揚げるその仕草、一部の女性の間では「かっこいい」などと大評判らしい。
私にはそうは思えないけれど、とても。