「ここ裂け谷では…」
観光案内の人が言っている言葉を上の空で聞きながら、辺りの木々を黙って見つめている。
見覚えがる気がする。
「何万年も前にここでエルフたちが生活してたなんて変な感じだね」
私の隣で友達が言った。
「エルフ?!」
「何驚いてるのよ…」
私は彼女をはっと見た。
友達は眉に皺を寄せこちらを見つめ返している。
そんな彼女の後ろを髪と耳の長い人物が通っていくのを見た。
「…エルフ」
頭が痛い。
胸騒ぎがする。
私は大事なことを忘れている…そんな気がした。
イシルドァとサウロンの絵画
折れた王の剣
中つ国の運命を決めた会議場
風景が目に入らない。
知っている気がするのはなぜだろう…
懐かしい気がするのはなぜだろう…
「あ!!ねぇねぇ!あそこに人が集まってる!行ってみよう?」
「あ…うん」
半ば引っ張られるようにその人ごみの中に入る。
人々が顔をあげて歓声を上げるも、私は黙って下を見てもやもやとした気持ちと向き合っていた。
視界に何かきらりとしたものが目に入る。
「これ…」
私は手を自分の顔の前にもっていき、まじまじと見つめる。
手首に巻かれたブレスレットと
自分の左の薬指にある指輪を
「王が」