別天地

□第九章
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 小屋に一歩足を踏み入れた真人は、外との空気の異質さに驚いた。日の光がさして届かない森は少し肌寒いくらいだったのだが、まるで熱帯地方のように熱が籠もっていた。おまけにその空気は粘度を持って身体に纏わり付き、辛うじて最低限の動きと呼吸ができるだけだ。
「あまり動けぬだろう。儂はこの空間でないと生きていけぬものでな」
 少女はそう云いながら小さなテーブルセットに腰掛け、真人もこちらに来るようにと手招きする。漸く椅子に座ることのできた真人は小さく溜息を吐くと眼前の少女を見た。先程はしっかり顔を見れなかったために気付かなかったが、彼女の耳はエルフの象徴でもある尖ったものではなかった。
「あんた、エルフじゃないのか?」
 怠さで思考力も落ちていたが、真人は疑問を投げ掛けた。その問いに刹那、少女は訝しげな表情を見えたが、すぐに元に表情に戻る。
「覚えておらぬならそれで良い。じきに思い出すじゃろ。それよりも」
 少女は真人に手を出すようにと云った。何をするのかと疑問に思いつつ、真人は黙って右手を差し出す。その手に少女の手が重なる。熱気籠もる部屋とは異質に冷たかった。
「ふむ……淀んでおるな。通り道は出来ているようだがな」
 少女の手が真人の手の上を撫でる度に、真人の体温は上昇し、心臓が跳ね上がる。それはあたかも、幻魔の村でシュイに魔力の通り道を作る、と云われた時と同じような感覚だった。
「水を淀ませておけばやがては腐る。魔力もそれと同じじゃ。適度に使って体内を流してやらねばならぬ。苦しいかも知れんが、今その方法を教えてやる」
 少女の言葉に反応しようとするが、身体も精神も活動限界を超えてしまっていた。少女は尚も言葉を続けていたが、もはや真人の耳には届いていなかった。
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