別天地

□第八章
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 気付くとそこは、大きな森の入り口だった。風が吹く度に木の葉が擦れ、ザワザワと音を立てる。それはまるで、木々が会話をしているように聞こえた。
「ここがエルフの森……」
 鬱蒼と茂り、奥は闇で全く見えない森を見て、エリスは感嘆とも驚愕とも取れる声を発した。
「ここに、何か手がかりがあるのかな?ねえ、真人さん?」
「…………」
 エリスは傍らの真人に声を掛ける。だが真人からは全く返事は返ってこない。見れば真人は森を見て明らかに何かに驚愕し、疑惑の視線を向けているのだ。その証拠に、時々漏れる声には「まさか、」や「そんな馬鹿な……」と聞こえる言葉が紡がれていた。
「真人さん、どうしたの?」
 隣で呼び掛けるエリスの声に真人はハッと我に返り、心配そうに見つめる少女の顔を見る。何かを云うべきか云わずべきか何度も逡巡し、やがて決心したように再びエリスの顔を見る。
「……似ているんだ。いや、同じなんだ。幻魔の森、俺がかつて暮らしていた森と同じなんだ」
 この森は幻魔の森ではない。だが、森が醸し出す魔力は、間違いなく幻魔の森のそれだ。真人はこの森に懐古心を起こす以前に、恐怖を感じた。自分の知らない所で、何かが動いているようだった。
「やっぱりここに何かあるんだね。じゃあ行こう!」
 エリスはそう言うと、真人の制止も聞かず、単身森の中へ入っていった。そして5分もしない内に、同じ声が情けなく真人の名を呼んだ。
「やれやれ。早速迷子になったか」
 真人はふうと溜め息を吐くと、躊躇わずに森の中へ入った。つい最近まで自分の庭だった幻魔の森。それと同じ様相を見せるこの森は案の定、真人を容易にエリスの元へ導く。行く道も帰る道も失い、途方に暮れてその場にうずくまっていた少女は、視線の先に真人を認めると、急いで彼の元に駆け寄り、ぎゅっと抱き付く。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を衣服に擦り付けながら。
 苦笑しながら、真人はエリスの頭を優しく撫でた。だが次の瞬間、エリスを抱えて素早く草むらの中へ飛び込んだ。直後に真人達のいた場所へ、矢が一本刺さった。
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