別天地

□第四章
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 水平線から太陽が昇る。海面はその太陽を映し、漣に揺れながらキラキラと輝いていた。
「すっ……げぇ……」
 目の前に映る美しい情景に、真人は思わず感嘆の声を漏らした。生まれてから今まで森で暮らし続け、勿論海など一度も見たことの無い真人にとって、それは感動以外の何物でも無いだろう。だが窓越しに見えるその景色とは裏腹に、彼の表情は晴れやかでは無かった。胸の中に取れそうで取れない小さなしこりがあるような煩わしさが残っている。真人は布団から体を出しながら、昨日の事を思い出した。
 しこりの原因である、あの少女の事を。


海辺の街、ファースティア。村を出た真人たちが最初に訪れた街である。街の規模は、勿論幻魔の村とは比較する必要も無い程大きく、通りは人で溢れ返るほど賑わっていた。街の入り口でシュイは立ち止まり、真人を見た。
『真人、私は用事があるから行かねばならない。すまないが、一人で見て回ってくれ。宿は取っておくから』
「別に良いよ。寧ろ一人の方が楽だし」
 真人は手を振りながら笑顔でシュイと別れた。シュイの姿が見えなくなると、真人は改めて街並みを見た。初めて見る大きな街に不安はあるものの、シュイにああ云った手前、覚悟は決めねばなるまい。とにかくトラブルにさえ巻き込まれなければ良いのだから……。
 初めは心配だったものの、必要な物は後でシュイと買いに来れば良いのだから……と自分に云い聞かせた。果たして思惑通り、何事も無いまま真人は店を見て回った。だがトラブルというものはいくら気を付けていても、トラブル自身がこちらに向かってくる事もあるのだ……。
 真人は少し離れた広場に来た。人込みを抜け、息苦しさから漸く解放された真人。少し休もうと木陰に行こうとした時だ。

 ドンッ

 何かが後ろからぶつかってきた。だがその衝撃は軽いもので、真人は気付かずに歩いた。すると今度は、その箇所から真人の衣服を引っ張る感覚があった。その場所を見ると、そこには一人の少女がいた。
 少女は二つに結い上げた紅い髪を小刻みに震わせ、必死に真人にしがみ付いている。剥がそうとしても中々離れない。
「…………さい」
 少女がか細い声で呟く。
「お願いします。私を、私を助けて下さい!」
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