別天地

□第二章
1ページ/6ページ

 緋竜を寝床に就かせ、青龍は一人、ぼんやりと考えていた。エネルギーを無駄に使わぬよう、そして緋竜を起こさぬよう、照明を暗くしながら。
「……やはり、緋竜を置いてはいけない」
 だが緋竜を危険に巻き込むわけにもいかない。折角の機会だが、青龍はシュイの所に断りに行こうと決めた。緋竜が幸せならば、自分はどんな罰でも受けられる自信があるから。
 青龍は緋竜を起こさぬよう、そっと家を出た。心地好い外気が頬を撫で、空を見上げれば、沢山の星が瞬いている。
「そういえば……夜中に外を出歩くのは、久し振りだな」
 あれはおよそ十年前、丁度青龍の母が亡くなった時だった。
 母は、自分を生んだがために、村の者から酷い仕打ちを受けるようになった。でもいつも笑顔でいた。そして緋竜を生んで間も無く、病で臥せた時も……。
 母が亡くなったあの日、青龍は一人闇の中を走った。走りながら泣いた。誰もいない森の中で、嫌になる程泣き続けた。そして決意した。命を懸けて緋竜を守る事を。
 緋竜は何も云わないが、恐らく村の者から何かしら酷い扱いを受けているだろう。ならば尚更置いていく訳にはいかないのだ。 そんな事を考えている内に、村長の屋敷まであともう少しで着くところまで来た。その時だ。
「……?」
 何かの気配がする。人ではない気配だ。だが、村は森の加護で護られ、獣は侵入できない筈だ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ