別天地

□第八章
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「誰だ!?出てこい!」
 真人の叫び声に感応するように、木の上から何かが下りてきた。それは緑色の短髪の人間の男の形を模し、しかしながら尖った耳が、人とは似て非なるものだという事を暗に示していた。
「エルフ……か」
 男の姿形は真人の知識にあるエルフ族そのものだ。そしてそのエルフは今、真人達に包み隠す事無く殺意を放っている。
「人間風情が、神聖なる我等の森に足を踏み入れるとは……。即刻始末してくれる!」
 そう叫ぶとエルフの男は懐からダガーを取り出し真人に襲い掛かる。素早い動きに反応が遅れた真人だが、咄嗟に、腰に下げていた短剣を構える。キン、と金属のぶつかる音が聞こえ、二人の男の間に火花が散る。
「……くっ」
 エルフは悔しそうに呻くと、真人を蹴り飛ばすように、後ろに跳躍する。思わぬ箇所への衝撃に姿勢を崩され、真人は苦痛の表情を浮かべる。だが第二波に備え、急いで態勢を整える。
「エリス、危ないから少し離れてろ!」
 真人の言葉にエリスは弾かれるような反応をする。
「で、でも……」
「武器も無いのにどうやって戦える!?早くしろ!」
 船に乗る際、担保として双剣、ツァウバー・シュベルトをユウキに奪われ、現在は完全な丸腰状態のエリスは、云われずとも足手纏いなのである。
「よそ見している暇は無いぞ!」
 エリスに気を向けていた真人が、男の声に反応する頃には、男が音も無く放った幾多もの氷刃が、一直線に真人へ襲い掛かる。その素早い猛攻に、真人は避ける事もできずに直撃を食らう。
「真人さんっ!?」
 エリスの悲痛な叫び声が森中に響き渡る。幸いにも攻撃は全て急所を外れてはいたが、真人の体には無数の傷が付き、腕や顔は血に塗れていた。致命傷には至らずともダメージはかなり大きく、気を抜けばその膝はすぐにでも崩れ落ちそうだった。
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