別天地

□第四章
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 女性独特の高い声とともに、少女は顔を上げた。年は十代前半くらいだろうか、美人とはいかないまでも、平均よりは整った顔立ちに、髪の毛より濃い、紅玉の眼には恐怖の色を浮かばせ、じっと真人を見つめている。真人は一瞬、その眼に吸い込まれるような感覚を覚えたが、先程の少女の言葉を思い出し、嫌な予感を感じた。その時に逃げてしまえば良かったのだが。
「よぉ嬢ちゃん、探したぜ」
 その時、後ろで野太い声が聞こえた。振り向くとそこには、いかにも悪人面をしたスキンヘッドの大男、ひょろ長い吊り目の男、真人より一回り小さい男の三人が、いやらしい笑みを浮かべて立っていた。
「もう逃げられねえぜ。大人しくこっちに来て、『あれ』を渡してもらおうか」
「嫌です!貴方たちと私は何の関係も無いでしょう!?」

 真人は陳腐な演劇でも見ているような気分だった。当人たちは真剣なんだろうが、はっきり云って面白くも何とも無かった。唯一の救いは真人がシナリオに入っていない事だ。さっさと逃げよう、真人がそう思った時だった。

「この人が、貴方たちを追い払ってくれるんだから!」

 一瞬、真人の周囲の空気が凍り付いた。突然真人は、この劇の主役に抜擢された。勿論少女の言葉を聴いた男たちは真人の顔を見、そして大笑いした。
「冗談云っちゃあいけねえや。この細腕の兄ちゃんが俺達に敵うとでも思ったのかい」
 男達の言葉に真人の堪忍袋の緒が切れた。確かに幻魔の村でも真人の体型は細めだったが、見ず知らずの男たちにそこまで云われる筋合いは無い。それに彼らは知らない。真人が実は何度も幻魔の村で似たような輩を何度も撃退していた事を。

 男たちは一斉に真人に向かってきた。真人は黙ったまま動かない。それを見た男たちは、真人が恐怖で動けないものだと思い、油断した。だがそれこそが真人の狙いだった。
 男たちと真人の距離が十数センチになった時、突然真人の姿が男たちの視界から消えた。当然かなりのスピードで向かっていた男たちは咄嗟の判断が遅れ、広場の大木に激突した。当の真人は、男たちが気絶した後、激突した大木の上から飛び降り、綺麗に地面に着地した。
「うぅ……」
 男の内、最後に激突した男は、衝撃が軽かったのか、よろよろと起き上がった。
「なんだ、まだ立てるのか」
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