短編なぺーじ

□嵐の子
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目を覚ましたとき、雨音が僕の耳をたたくことはなかった。
とっても静かで、涼しい。
お風呂から出たときのようなさわやかな気分だった。
あまりに心地いいので、僕はしばらく目を開けないで、まどろみを楽しんでいた。
体がゆらゆらと上下に揺れるのは何だろう・・・。
空を飛んでいるかのようだ。
それとも、ここが天国ってやつなんだろうか。
おそるおそる目を開けた。
ここは・・・。
僕は海のまっただ中に浮かぶ、イカダの上にいた。
右も左も・・・周りは霧に包まれたようにぼんやりとしていて、頭上だけが目が覚めたように鮮明だった。
そこには満天の星空がきらりきらりと、まぶしいくらいに輝いていた。
「何で僕は・・・こんなところに・・・」
呆然としていると、
「気がついたんだね」
不意に話しかけてくる声があった。
「え・・・?」
イカダの上には僕一人しかいなかったので、いったいどこから声がしてくるのか、最初わからなかった。
きょろきょろとする僕に、
「こっち、こっち」
バシャ! と、水面をたたく音が聞こえた。
音の方を見ると、少年が海の上に仰向けに、大の字になって浮かんでいた。
「・・・・・・」
まるで妖精のようにきれいな顔をした少年だった。
目が大きく、怖いくらいに澄んでいた。
星空を、とても楽しそうにながめている。
「きみが、ぼくを助けてくれたの?」
少年は目だけをぼくの方に向けて、ニコリとほほえんだ。
「うん」
「ありがとう・・・」
「どういたしまして」
そういうと、少年は空の方に目をやった。
きらきらと輝く星空に夢中で、ぼくのことなんかまったく興味がないみたいだった。
「ここは、どこなの?」
「・・・日本海だよ?」
少年はきょとんとした顔でそう答えた。
「日本海って・・・それはわかるけど、そのいったいどのあたりかな、と思って。ずいぶん沖に流されちゃったみたいだから・・・。きみは、このイカダで来たんでしょ?」
「ん? 違うよ。ぼくは泳いできたんだ。そのイカダは、きみと一緒に流れてたんだよ?」
「・・・泳いできたの? こんな台風の日に」
「わるい?」
「え? そりゃあ・・・」
変な子だな、と思った。
でも、なんだか不思議な感じがして、ぼくはその子の顔から目が離せなくなった。
「悪いよ。危険じゃない。おぼれたらどうすんの」
「きみだって、泳いでた」
「ぼくは、おぼれてたの」
「あ、そうだったね」
あはははは。
少年は、とても楽しそうに笑い出した。
「きみ、この辺じゃ見かけないけど、どこから来たの? 何でこんな夜中に海を泳いでるの?」
「南から来たんだよ。昼は、星が見えないからきらい」
「南? きらいって・・・なんかよくわからないなあ。きみって、なにもの?」
少年は、ぼくの質問にまた笑った。
そして、ゆっくりとに空を指さした。
「そんなことより、見てごらんよ。星がすごくきれいだよ。座ってないで、ぼくみたいにして、空を直接ながめてみるんだ」
「え・・・?」
話をはぐらかされてすこし不満だったけど、ぼくは少年を見習って、イカダの上に両手と両足を大の字に広げてみた。
それは、本当にきれいな星空だった。
漆黒の空の中に、金色や銀色、緑、白、青、赤といった色とりどりの星が所狭しと輝いていた。
ちりばめられている、というよりはひしめいているといった感じだった。
むしろ、空の黒い部分の方が少ないんじゃないかと言うほどに・・・。
僕は、なんだか楽しくなってきて、笑った。
体の力を抜いて、目だけを空に向けてみた。
視界のすべてに、星がある。
それはまるで、ぼくの体が星空の一部になってしまったかのようだった。
「なんてきれいなんだ・・・」
ぼくは、夢を見るかのように、うっとりと星空をながめてしまっていた・・・。
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