短編なぺーじ

□妖凄のねじ巻き
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その時計が、動かなくなった。
ぼくが13さいになった日の朝のこと。
いつも時計のわきに立てかけておいたネジ巻きが、とつぜんなくなっちゃったんだ。
絶対になくさないように、時計にひもでくくりつけておいたはずなのに。
家中、探し回ったけど、どこにも見つからなかった。
近所の時計屋さんに持っていって、かわりのネジ巻きを作ってもらおうとしたけれど、店員さんは首をひねるばかりで、けっきょくつくってもらえなかった。
ゼンマイを巻けなくなった時計は、しばらくすると動きを止めた。
いつもぼくの耳の中にひびいていた音がなくなって、心の中にぽっかり穴があいちゃったみたいだった。
それからは、夜、眠るのが怖くなった。
時計の音がひびいていない明かりを消した部屋は、ものすごく大きな穴の中におとされたかのように、まっ暗で広く感じた。
落ち着かなくて、こわくて、目をつむると涙がこぼれてきた。
やっと眠れても、こわい夢ばかり見るようになった。
ぼくは、それから考えるようになった。
10年前、ぼくがこの時計をひろってきたときも、この時計のネジ巻きはなかったんだ。
それがいつの間にかぼくはネジ巻きを持っていて、時計はカッチン、カッチンって音をひびかせてくれるようになっていたんだ。
どうやってネジ巻きを手に入れたのかを思い出すことができれば、また同じようにして手に入れられると思ったんだ。
あたまが痛くなるほど考えた。
勉強でだって、こんなにあたまをつかったことはなかったよ。
学校に行くときも、授業中も、給食の時間も。
休み時間とか友達と遊んでるときとかはちょっとさぼっちゃったけど、それでも一日中っていってもいいくらいに、ずっと小さいころのことを思い出そうとがんばった。
一番考えるのは、夜眠るときだった。
暗くて静かな部屋の中は、一番考えやすかったから。
そんなことをしているうちに、ぼくはいつの間にか眠るのがこわくなくなっていた。
目をつむると、すぐに眠れるようになっていた。
思い出そう、思い出そうとそればっかり考えていたから、部屋が暗いことも、静かで落ち着かないこともすっかり忘れてしまって、眠れるようになっていたんだ。
いつのまにか、ぼくは時計の音がなくてもだいじょうぶになっていた。
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