短編なぺーじ
□リンコ
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リンコ
リンコは今日も待っています。
そろそろ小学校が終わる時間。
元気な足音がもうすぐ聞こえてくるはず。
『ほら、きたよ、スウくんが』
茶色い落ち葉が目立ち始めた雑木林の中を、息を切らせてかけてくる小さな子供。
その子は、スウといいました。
この雑木林の中には、いつもこの少年を待っている、小さな小さなお花のつぼみあります。
スウくんが、初めて育てた宝物。
今は恥ずかしそうに顔を隠しているけど、もう少しすれば、きっと大きなきれいな花びらをつけて、スウくんにほほえみかけてくれるに違いありません。
このつぼみは、スウくんがここで友達と遊んでいたときに、たまたま見つけたものでした。
なぜだかとても気に入って、それからはみんなに内緒で育てています。
「リンコ」
スウくんはお花のことをそう呼んでいました。
好きな女の子の名前です。
本当は、その女の子の名前は「鈴(リン)」っていうんですけど、そのまんまの名前を付けてしまうと、お花の名前を呼ぶたびに、はずかしくって顔がリンゴみたいに赤くなっちゃうので、「子(コ)」ってよぶんにつけて、少し気をまぎらわしているのです。
スウくんは、空き缶に入れた水をリンコにかけながら、今日一日学校であったことを話します。
「今日、学校でテストがあったんだ」
『テスト? それは大変だったね』
リンコはそれを聞いて、心の中で感想をいいます。
本当はスウくんと話せればいいんだけど、リンコには口がありません。