短編なぺーじ

□嵐の子
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嵐の夜のことだった。
雨がたたきつけるように強く、防波堤に打ち付ける波は怒り狂っていた。
外に出るのは危険だとわかっていたけど、明日、初出港を迎えるはずだったイカダが海につなげっぱなしだったことを思い出して、いてもたってもいられなくなったんだ。
自分一人で、三ヶ月もかけてやっと作り上げたイカダ。
明日それで海に出るのを楽しみにしてたってのに、こんなことで壊されちゃたまらない。
家族が寝静まるのを待つと、僕はカッパを着込み、懐中電灯とカサを手に取り家の外に出た。
左のほおが痛い。
海に行ってイカダを安全な場所に移動させるんだってだだをこねたから、とおちゃんにぶん殴られたんだ。
外は水の壁ができているかのようだった。
懐中電灯で照らしても、一メートル先も見渡せない。
突風がうなりをあげている。
カサはすぐに逆さまになり、使い物にならなくなった。
カッパの中まで水浸しになった。
僕は体をちぢこませて、両腕で胸を抱きかかえるようにして一歩一歩進んでいった。
体中が冷たい。
とおちゃんに殴られた左ほおだけが、異様に熱かった。
泣きたい気持ちになってきた。
でも、やっぱりイカダをあきらめることはできなかった。
・・・あった。
突堤の先、激しい突風にあおられて、イカダは波の上で跳ねていた。
このままじゃ海に流されるか、バラバラに飛び散ってしまうかどちらかだった。
僕は突堤に走った。
イカダを引き上げなきゃ、その気持ちでいっぱいだった。
でも、突堤に足を踏み入れたとたん・・・。
何かとてつもない怪物におそわれたかのようだった。
空が消えて、雨が一瞬やんだ。
巨大な影が頭上に現れて、とてつもない怪力で、僕の体をその懐に抱き込んだ。
波が、僕を海の中にさらっていったんだ・・・。
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