短編なぺーじ

□妖凄のねじ巻き
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「妖精のネジ巻き」

カッチン、カッチン・・・。
その音は、いつもぼくの部屋の中にひびいてた。
この音を聞くと、とっても落ち着いて、夜ぐっすり眠れたんだ。
それは、時計の音。
勉強机のはしっこにおいてある、木でつくられたゼンマイ式の小さな時計。
ぼくの朝は、この時計のゼンマイを、ネジ巻きでギコギコ回すことからはじまっていた。
10年くらいまえ、ぼくがまだ本当に小さかったころ、川ぞいのごみすて場からぼくがひろってきた時計だって、母さんはいってた。
どろまみれで、きずだらけで、なによりゼンマイを巻くネジ巻きもなくなっちゃってて、
こんなもの使い物にならないからすててきなさいって母さんはいったけど、ぼくは泣きわめいて、なおすんだっていったらしいんだ。
ぼくはそんなことぜんぜんおぼえていなかった。
どうやってゼンマイのネジ巻きを手に入れたのかも、さっぱり。
ものごころついたときには、もうぼくの机のはしっこには、この時計が置いてあったんだ。
そして、いつもちゃんと時間を教えてくれていた。
カッチン、カッチン・・・。
朝おきるときも、まんがを読むときも、勉強するときも、友達と部屋で遊んでいるときも、もちろん眠るときも。
ぼくの耳にはいつもこの音がひびいてた。
カッチン、カッチン・・・。
この音を聞いてると、すごく心が安まったんだ。
夜眠るときなんか、この音がないとなんだかすごく不安な気持ちになった。
だから家族で旅行に行ったときなんか、夜、なかなか寝付けなかったほどなんだ。
ぼくはこの時計の音が好きだった。
この音が聞こえているときも、聞こえていないときも、いつも心の中には、時計の音が響いてた。
カッチン、カッチン・・・。
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