フライレン大陸物語

□風の剣
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 アユセンの村。
 リリアの森の奥深く、まるでその身を隠すようにひっそりとたたずむ村は、大陸にすむほとんどの人間が知らぬ村である。
 村の発端は、都市に住むことのできなくなった犯罪者や病人などが治外法権の地といえるリリアの森に逃げ込み、共同で生活を始めたのが始まりとされている。
 いわば、逃げてきたものたちの集まる村であり、そのような場所が歴史の表舞台に姿を現ることなど一度もなく、望みもしなかっただろう。
 その、アユセンの村…。
 今夜は雲により空が隠され、星の瞬きを望むことはできない。
 月の明かりがおぼろげにのぞき込んでいるのみである。
 闇の中、四人は茂みの中に隠れ、遠くから村の様子をのぞいていた。
 とはいえ、村には明かり一つなく、点在する家のシルエットが何となくおぼろげに見えるのみで、まったく様子をうかがい知ることはできない。
「本当に、魔王の軍の幹部がいるのか? 恐ろしく静かだが…」
 アグアがいった。
「まあ、静かにこしたことはないけどね」
 そういったプリメロは、鎧をせっせとはずしている。
「何やってんだ?」
「僕が、偵察に行って来るよ。みんなはここで待ってて」
「偵察っておまえ、一人でか? それなら俺も行くよ」
「いや、わたしが」
 イフルも身を乗り出す。
 カーシは少し離れたところで一人、すねたように木によりかかっている。
 先ほど村が見えたとたん剣を握りしめて走り出そうとしたところを、イフルに必死で止められ、長々と説得された上でしぶしぶ傍観を決め込んだのだ。
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