フライレン大陸物語
□リリアの森の討伐隊
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すでに日も暮れようとしていた。
リリアの森。
プリシルドの神話に現れる美しい妖精の名を冠したこの森も、夜になるとその妖精の名からは想像もつかないほどに恐ろしい森となる。
北のオーシャ地方から冷たい風が吹き抜け、木々はサワサワと落ち着きをなくす。
森に住む動物たちは、夜を恐れるかのように日が暮れるとともに眠りにつく。
そして、それと入れ替えるように恐ろしい魔物達が姿を現す。
いつ頃からだろうか、魔物がこの森に住み着くようになったのは。
今の世は魔王バルが支配する暗黒の世、歓迎すべき事ではないが、魔物の存在はそれほど珍しいことではない。
だが、この森の魔物だけは魔王の出現以前から確認されており、魔王の軍の使役する魔物とは若干の異なりを見せている事も興味深い。
一説に寄れば、何百年も前、潜りの魔道師がある魔物を召還した。
だが、その魔道師にはその魔物を使役するほどの力がなかったために、魔道師はその魔物の地上での第一の犠牲者となった。
魔物はその後、このリリアの森にたどり着き、そこに居を構えた。その魔物の出す異界の瘴気がこの森に住む動物を奇形化させ、リリアの森独特の魔物を誕生させているということである。
だが、そのような理屈は、この森に迷い込んだ者にとっては何の利得もない。
「うわあ、でたあ!」
突然、森に叫び声が響いた。
「静かにしろ、プリメロ! こっちまで驚くだろが」
「で、でも双頭オオカミが、まだ完全に日も暮れてないのに・・・」
「ああ。バルの影響力が強まってるんだろうな」
アグアは魔よけに唾を吐くと、槍を構えた。まとう鎧の金属音がガシャリと響く。
顔全面を覆う無骨な兜の奥で、鋭い眼光がきらめき魔物を見据えた。
「アグア、大丈夫だよね」
「当たり前だ、こんなところで死んでたまるかよ。おまえは俺の後ろに隠れてろ」
「う、うん・・・」