+戦さ人+

□偏
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「殿。幸村と何か話しましたか?」

 三成の特技は、後方支援と舞、そして他人の厚意をむげにすること。…と、左近は常から思っている。
 今日もそうであった。
 幸村がはるばる佐和山にやって来たので、左近は彼らがふたりきりになれるように取り計らった。そのお陰で三成の文机の上に詰まれた書簡の決済を全てやることになったのだから、何らかの進展をと期待するくらい当然の権利である。
 何しろ、左近はふたりが想い合っていることを知っている。三成からはそのような相談を頻繁に受けるし、幸村の優秀な忍たちも口々にそのような話題を零す。真田十勇士と左近は互いの主の恋愛下手とそのもどかしさを肴に酒を酌み交わす仲なのである。
 だが誰も急かしはしないのだ。相談を受ければ応えるが、それ以上の口出しはしない。主がしたいようにすべきだからというのが左近の認識だ。
 さて、ようやく幸村の泊まる茶室から引き揚げてきた三成を捉まえたところで冒頭の質問である。
 三成はその整った顔をきょとんとさせて、小首を傾げる。

「そりゃあ、いろいろと」

 質問の意図が上手く伝わらなかったのか、それともわざとはぐらかしているのか、とにかく三成はそう答えた。左近はもう一度問う。

「まさか昼間からこんな夜更けまで、詰め将棋で遊んでたなんて言うんじゃないでしょうね?」

 三成が眉を寄せる。
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