随筆紺碧

□シュークリーム
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 それを見て噴き出さなかったセリオスの精神力は脱帽モノである。
 とっさに俯いて、口元がひくつくのを必死に堪えると、レオンが流したものとは違う意味の涙まで出て来た。
 その様子をどう取ったのか、レオンは心得顔に肯くと、セリオスの手を引いて隣に座らせた。
「お前も知らなかったんだろ…判るぜその気持ち」
 レオンが髪を撫でる感触を感じ、セリオスは顔を上げた。
 レオンと目を合わせるが、気を抜くと笑い出しそうになる。
「…だがお前が食わなければ、こいつは無駄死にしてしまうんだぞ。それでも良いのか?」
 ようやく絞り出した声も、不自然に震えている。だが、それを誤解して受け取っているレオンは、納得したようにこくりと肯いた。
「判った…オレ、食うよ」
 そう言ってシュークリームに向き直り、口元へ持って行くのだが、齧る事に抵抗があるらしく、どうにも一口が踏み出せない。
「…貸せ。ちぎってやるから」
 そう言うと、セリオスはシュークリームを奪い取り、一口程度の大きさにちぎってやった。
「口…開けろ」
「ん…」
 いつもの態度とはうって変わって、レオンは素直に口を開けた。
「美味いか?」
「うん…」
 何だか、雛鳥に餌をやる親鳥の心境だな、と思いつつ、セリオスはレオンにシュークリームを食べさせてやった。
 最後に、口元についたクリームを舐め取ってやったが、レオンは抵抗しなかった。

(……)

 数週間後、味をしめたセリオスが、今度はショートケーキで同じ事をしようとしたとかしないとか。
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