随筆紺碧
□シュークリーム
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「…何をしている?」
図書館から帰って来たセリオスが、開口一番そう言った。
リビングでは、紅い髪のルームメイトが何やら神妙な顔をして座っている。
彼の目の前にあるのは、1個のシュークリーム。
昨日ラスクからお裾分けして貰ったものである。
「そんなモノと睨み合いか?」
制服から私服に着替えながらセリオスが問うと、紅い髪の少年――レオンはこちらを見上げ、はぁ、と溜息を吐いた。
「セリオス…オレは今まで誤解をしていた」
「何だいきなり」
「オレのこの生命は、色んなモノの犠牲の下に成り立ってたんだって事だ」
「はあ?」
レオンの台詞に、セリオスは普段では絶対に言わないような、頓狂な声を出した。
どういう心境の変化なのかは判らないが、どうやらレオンは、日常意識しなかった食べ物のありがたみを実感しているらしい。
「ま、世の中には食いたくても食えない人間が居ることだしな。嗜好品を口に出来るだけ幸せかもしれん」
突拍子もない台詞だが、レオンの言う事にも一理あると思い、取り合えず同意する。
「こんなちっこい菓子でも、オレの血となり肉となるために、犠牲になってくれんだよな…感激だぜ」
「犠牲って…たかが洋菓子1個に大袈裟な奴だな」
そう苦笑混じりに呟くと、レオンはキッとセリオスを睨みつけた。
「何言ってんだテメェ!こいつだって生きてんだぞ!齧られたら痛ぇって感じんだぞ!!」
「はあ!?」
本日2度目の間抜け声である。
彼にこんな声を何度も、しかも短時間のうちに出させる事が出来るとは。
レオンとは結構凄い人物なのかもしれない。
「なのにオレは…自分の無知さが恥ずかしいぜ」
見ると、うっすらと涙が滲んでいる。
ここまでして彼は食べ物の重要性を訴えたいのか。それとも本当に生菓子が生きていると思い込んでいるのだろうか。
「そんなモノが生きている訳がないだろう。馬鹿も大概にしろ」
「何だと!?それならコレ読んでみろよ!」
そう言ってレオンは、物凄い剣幕でシュークリームが入っていた紙袋を突きつけた。
正確には、紙袋に貼付してあるシールなのだが、それにはこう書かれていた。
『生物ですので、お早めにお召し上がりください』