随筆紺碧
□うさぎとカレ
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それから1時間。
レオンとみずちが飽きる様子はない。
主従揃ってすっかりハマってしまったのだった。
「みずちも可愛いけど、こいつも可愛いよなー」
ふわふわ毛皮のうさぎを左頬に、しっとりひんやりなしろへびを右頬に押し付ける。
雪のようなふたつの白に、レオンの紅い髪が溶け合うように埋もれた。
「寮じゃなきゃ飼うんだけどなー」
余程気に入ったのか、そんなことまで言い出す始末。
それを聞いたセリオスは心中穏やかではいられない。
何しろ、レオンとは逆に生き物というものに殆んど触れることのなかったセリオスである。
自分のマジックペット──因みに赤竜である──ですら漸く馴れたところなのに。
いや、それよりも何よりも、これ以上レオンの興味が奴らに傾くのは我慢できない!!
「レオン」
「何だよ…って、何怒ってんだお前?」
名前を呼ばれて振り返ったレオンの目に映ったのは、いつになくきつい眼差しをしたセリオス。
「こいつがどんな生き物か知っているのか?」
「は?」
てっきり待たされて怒ったのかと思いきや、セリオスの口から出たのは違う言葉だった。
「どんな…って、うさぎだろ。ふわふわして可愛くてちっさくて」
「そうじゃない。どういう習性を持った生き物か知っているのか、と訊いているんだ」
話の意図が掴めない。
「知らねーけど…それが一体…」
「こいつらはな、発情期のない生き物なんだ」
「はあ?」
時折セリオスはレオンに理解しきれない話を振ることがあるが、今回は輪をかけてひどい。
「そ、それがどうだってんだよ。いいことじゃないのかそれって?」
発情期がないということは、犬や猫のように去勢や避妊の手間が省けるのではないだろうか。
相変わらず話の全体像は判らないままだが、それでもセリオスに馬鹿にされるのは嫌だったので、必死で話に食いつく。
「良い訳あるか。発情期がないということは、いつでも発情できるということだ」
「だから何が言いたいんだよ!」
「こいつらは、雌雄どころか種族ですらも関係なく襲い掛かる好色な生き物なんだ!」
その言葉にどう返していいのか見当がつかず、レオンは暫し呆けた。
頭上のみずちも、小さな目をぱちくりさせてセリオスを見ている。