随筆紺碧

□うさぎとカレ
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「おい、レオン。そろそろ行くぞ」
「もうちょっと待てって。あーもー可愛いなー」
 満面の笑みを浮かべながら、レオンは腕の中の白い塊に頬擦りをする。
「もうちょっとって、一体どれだけ待たせるつもりだ」
「うっせーな、イヤならお前一人で行けばいいだろ」
 自分から『街へ行こう』と誘っておいて随分な言い草である。
 腹が立たないと言えば嘘になるが、今のレオンに何を行っても無駄なのは判っている。
 それに、折角の休日を喧嘩で台無しにしたくはない。
 セリオスはそれっきり黙りこむと、諦めたようにレオンの隣に佇む。
 視線だけはその白い塊に注がれたまま。

 レオンの腕に抱かれているのは、一羽のうさぎ。
 久々に下界の街を散策していたところ、一軒のペットショップで行われていた催し。
【ふれあいコーナー】と記された看板のそばに設けられたいくつかのケージに、うさぎなどの小動物が放たれていた。
 じかに生き物たちに触れてもらい、購買を促す目的なのだろう。
 効果のほどは覿面らしく、ケージの周りには多くの人々が集まり、動物たちの頭をなでたり餌をやったりしている。
 環境上幼い頃から生き物と触れることが多かったレオンも、その催しに興味を惹かれた。
 レオンが小動物に触れるたび、定位置である彼の頭上に乗っていたマジックペットの『みずち』も、自分以外の生き物を物珍しそうに眺めていた。
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